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松井健教授 最終研究発表会 「『自然』を中心テーマとする人類学の四十年」が開催されました

報告

松井健教授 最終研究発表会 「『自然』を中心テーマとする人類学の四十年」

  1992年以来、汎アジア研究部門の助教授、教授(1994年より)として、23年間にわたり東京大学東洋文化研究所につとめられた松井健先生が3月末をもって退職されるにあたり、「『自然』を中心テーマとする人類学の四十年」と題する最終発表会が行なわれた。
  研究発表は、博士課程進学以降40年にわたる自らの研究を、沖縄及びアジア各地に加えてアフリカをも含む様々なフィールドの写真と共に振り返りつつ、認識人類学から、遊牧、環境、工芸と多彩に展開したそれらの研究が、「自然」というテーマをめぐって、具体的な調査から紡ぎ出されて来たことを示すものであった。まず(初期)認識人類学について、言語ラベルの体系的蒐集を基本的手法とし、実証可能性と民族誌的厚みを両立しながらも、過度に単純な認知過程を前提としていたとして、展開への若干の示唆と共に批判的に総括した。続いて遊牧民研究について、遊牧が遊動的牧畜であることを前提として、多資源適応を行い家畜を拘束しない西南アジアの遊牧民のあり方から、自由に動きたい欲求を持つ人間が可塑的な諸制度を作り上げており遊牧もその観点から分析されるべきだという、従来の生態学的適応としての遊牧という議論とは本質的に異なる遊牧に関する理解を提起した。さらに、西南アジアの沙漠文化が、インド、イラン(ペルシャ)双方の文明と異なる独自性を有しており、国家が人々を統制できず、部族的イスラーム的規範を前提とした競争的で「自由」なその社会が、「前」近代でなく「反」近代と言うべき、近代を拒否する非常に強い連合を作り上げていることが示された。次いで環境と開発を巡る問題について、沖縄での経験から、現地において重要なのは、開発の成功・失敗よりは、開発により二分されてしまった地域に共に住み続けるための配慮である場合があることが指摘された。さらに近年の研究の一つの焦点となっている工芸について、社会と環境への負荷が小さい工芸は地域的な付加価値を生み出し得るが、クラフトスケープとしての場といったイメージ戦略を巡る問題と共に、よいもの、美しいものを残すという問題があり、ここで柳宗悦の言う「自然」(人為でない自然)が重要な意味を帯びることが指摘された。最後に、「自然」の実体的・概念的な多様性と重層性を前提としつつ、「自然とは何か」という本質を求める問いからではなく、様々な具体的な現れから追いかけてきたのが自らの研究であり、これからもさらにそれを続けていくことが宣言された。
  長年の研究の理論的エッセンスの提示と、個々の写真の細部に至る具体的なディテールの解説とを往復する密度の濃い発表の後、須藤健一・国立民族学博物館館長よりコメントがあり、最終研究発表会は閉じられた。会場は100名を超える参加者で、立ち見が出るほどの盛況であった。

(汎アジア研究部門 教授 名和克郎)

当日の様子

松井健教授 最終研究発表会 「『自然』を中心テーマとする人類学の四十年」 松井健教授 最終研究発表会 「『自然』を中心テーマとする人類学の四十年」
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開催情報

日 時: 2015年3月12日(木) 14:00 - 16:00

会 場: 東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室

題 目: 「自然」を中心テーマとする人類学の四十年

発表者: 松井 健  (東洋文化研究所・教授)

司 会: 池本 幸生 (東洋文化研究所・教授)

担 当: 松井 健

関連情報

松井教授の研究テーマ・略歴・業績

・2011年以降、東洋文化研究所で紹介した松井教授の著作

松井 健 著『新版 セミ・ドメスティケイション』 松井 健・名和 克郎・野林 厚志 編『グローバリゼーションと〈生きる世界〉―生業/生産からの人類学的ヴィジョンの模索―』 松井 健 著『西南アジアの砂漠文化』 松井 健 著 『民藝の擁護 --基点としての<柳宗悦>--』
(画像クリックで著者による紹介記事へ)


登録種別:研究活動記録
登録日時:MonApr615:43:272015
登録者 :名和・後藤・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20150312 - 20150612
当日期間:20150312 - 20150312