| 研究会名 | イスラーム家族・女性関連法の運用実態の研究 |
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| 代表者 | 森田豊子(鹿児島大学グローバルセンター) zanan.kaken◆gmail.com |
| ◆を半角@に直してご利用ください | |
| 研究会の概要 | イラン家族保護法の翻訳から浮かび上がってきた、法の運用実態における「婚姻(一時婚、複婚、婚資、外国人との婚姻等)」、「離婚(養育権、扶養料、ドメスティック・バイオレンス等)」、「養子縁組(相続、血統・家系・親族関係等)」、「LGBT」、「妊娠、出産、 人工妊娠中絶」、「女性の就学・就労の権利」など具体的な問題を民法や家族保護法を参照にしながら考察する。また、その成果を他国の事例と比較することで、イスラーム諸国における女性及び家族に係わる法律の運用実態の共通性と差異を明らかにする。 |
| 代表者からのメッセージ | 研究会にご参加を希望される場合には、必ず上記連絡先に事前にご一報ください。 |
決まり次第、本ウェブサイトでお知らせいたします。
司会:山﨑和美(横浜市立大学) |
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休憩 (10分) |
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コメント:森田豊子(鹿児島大学)(10分) |
討論(30分) |
研究会の後、懇親会を予定しております(18:00~)
<概要>
IG科研公募研究会「イスラーム家族・女性関連法の運用実態の研究」では、これまでイランにおける家族法、子どもの権利や相続法についての研究会を開催してきた。これらの研究を踏まえ、今回の研究会の目的は、日本における家族法のあり方に焦点をあてることである。イランおよびイスラーム諸国の家族法との比較の観点から、また、近年のグローバル化に伴う国際結婚の増加に起因する現実的な法律問題解決の観点からも、日本における家族法の実態や運用について把握し、イランの家族法やイスラーム法との比較検討を行うことには意義があると考える。
*本研究会に参加希望の方は前日までで結構ですので、 zanan.kaken@gmail.com(@を半角にしてご使用ください) までご一報いただけるとたいへんありがたいです。
共催:科研基盤C「近代イランにおける女性教育の推進:イスラームと西洋近代の相克」(代表: 山﨑和美)
本研究会は、これまでイスラーム諸国の家族法における子どもの保護について、相続についてなど、家族をめぐる法律を中心とした問題について議論してきた。今回のテーマは日本の法律の中でのムスリムに関係する事件について、弁護士の浦野修平氏からの報告、さらに現在の日本の民法における子どもの問題について日本の民法研究者である橋本有生氏による報告とそれに続いて討論が行われた。
山﨑和美氏による本公募研究会の趣旨についての説明のあと、二つの報告がなされた。第一に、弁護士の浦野氏の報告では、外国人の退去強制手続きの大まかな流れの説明のあと、これまで日本の裁判所で争われた、イラン人に関係する5つの事件についての概要と、その裁判の中で、イランの法的現状がどのように語られ、どのように判決に影響したのかについて説明された。特に民事訴訟においては、イランやイスラーム法についてあまり詳しくない調査者による報告から裁判官が「普通の」感覚でイランの法的現状などについて判断されることがわかった。
次に、橋本氏による報告では、日本の民法における子の親権の内容、親権を持つ親が子に対して、および子の代理でできることとその限界、子の利益とはどんなものであるのか、最後に、ハーグ条約に基づく子の引き渡しの問題について、複雑な民法規定を法律の専門家以外にもわかりやすくまとめてご報告いただいた。特にここでは、子の引き渡しについては日本国内事案と渉外事案(外国人が当事者になる場合)で「子の自由な意思」の判断基準にばらつきがあることに問題があるのではないのかという指摘があった。今後、日本ではムスリムも含めた多くの外国人を受け入れることが予想されることから、このような問題についてより深い議論が必要であると指摘された。
続く森田によるコメントは、現在の日本において中東イスラーム諸国の国民が日本で裁判を受ける場合、未だ各国法の専門家がほぼいない状態で、裁判の中で語られる「イスラーム法」がどのようなものか、今後、詳細に検討する必要があるのではないかということ、裁判官が「客観的に見て」などと判断する場合のイスラーム法がどのようなものか、などについても、より詳細な研究が必要であろうと指摘された。続いての議論では、もともとイスラーム法が多様であることから、日本の裁判所が「これがイスラーム法である」と固定的にとらえることは危険であること、実際に法律家が裁判で求めている現実のあり方と、研究者が現地を研究していてとらえる現実のあり方が異なっていることからくる難しさ、また、一夫多妻など、日本と一部のイスラーム諸国で認められている法規定が異なる場合の解決方法などについて議論されるなど、活発な議論が行われた。 本研究会では12名の参加者があった。いつまでも議論が終わることなく、今後もまた、日本の法律家や法研究者などと協力しながら研究を進める必要性がより強く感じられた。

<プログラム>司会: 竹村和朗(日本学術振興会) 「趣旨説明とエジプト相続法の概要」(15分) 報告1: 小野仁美(神奈川大学) 「古典イスラーム相続法とチュニジア家族法」(40分) 休憩 15分 報告2: 森田豊子(鹿児島大学) 「イランにおける相続関連規定の変化と改正の動き」(40分) コメント: 小林寧子(南山大学) 討論 <概要>ムスリム諸国の相続法は、息子の相続分を娘の2倍とするクルアーンの章句を典拠とした古典イスラーム法規定に準拠したものが多い。このため、相続法における男女間の権利の不平等はしばしば問題視されてきたが、その改正はイスラーム法に反するものとして避けられてきた。ところが近年、人権思想やジェンダー平等の観点から、相続法改正を求める声があげられるようになった。また、こうした声を受けて、イスラーム法学の立場からもこの問題に対する応答がなされるようになっている。本研究会では、これら現代ムスリム諸国の相続法改正をめぐる問題について、古典イスラーム法の規定といくつかの国の事例を検討し、議論を進めていきたい。
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プログラム
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実施報告2017年2月13日(月)17時より、東京大学東洋文化研究所において「イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的総合的研究」公募研究「イスラーム家族・女性関連法案の運用実態の研究」班による第2回研究会として「女性の法的地位とジェンダー」と題する国際セミナーが開催された。英国オクスフォード大学フェローのサハル・マランルー博士を講師に迎え、モデレーターの細谷幸子氏と司会の山﨑和美氏の他、10名が参加した。当初予定していた2時間を超過するほど積極的な議論が交わされ、イランにおける女性の法的地位に対する参加者の関心の高さが伺えるセミナーとなった。 Access to Justice in Iran: Women, Perceptions, and Reality, Cambridge: Cambridge University Press, 2014の著者であるマランルー博士は、女性の司法アクセス、法と社会、ジェンダー、イランの法制度、エンパワメントなど幅広い研究を行っておられる。本セミナーでマランルー博士は、イランの婚姻や離婚、子どもの親権などの現状とそれに関連する法制度における女性の地位について講演し、イランの法律そのものがイスラーム法との関係上、多重で多層的であるという現状を明らかにした。こうした現状の中で、イランの女性たちは家族法における女性の地位の向上のために闘ってきたという点、女性の教育や雇用状態の向上という社会変化の後押しを受けて、イランの女性団体が家族保護法の改正に道を開いてきたという点が主に考察されていた。 マランルー博士の講演に関し、シャリーアにおける女性の法的地位、シーア派十二イマーム派の一時婚、離婚、家庭内暴力など、多くの質問がなされた。これらの質問に対し、スンナ派諸国における状況との違いに触れつつ、現代イランの男女の婚姻年齢、離婚後の子どもの後見と扶養、結婚式の実態、NGOの活動、慈善活動、婚資や嫁入り道具、SNSの使用状況、クルアーンの規定など広範囲に渡る実態を踏まえながら、応答がなされた。
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実施報告2016年12月11日(日)の午後、横浜市立大学において「イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的総合的研究」公募研究「イスラーム家族・女性関連法案の運用実態の研究」による研究会が開催された。アジア経済研究所の村上薫氏による「トルコにおけるエヴラットルックの変容と近代的養子概念の成立」の報告、および東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の細谷幸子氏による「イランの養子縁組と『保護者のいない子どもの援護法』(2013年)をめぐる議論」の報告が行われた。 イスラーム法では身寄りのない子を引き取り育てることは問題ないが、その子どもが養子として同じ姓を名乗り、遺産相続することは認められていない。また、養子は親族と見なされず家族成員との結婚も可能であるとされる。今回の研究会では、このようなイスラーム法の規定が歴史的、社会的変化に伴い、どう変化し運用されているのかについてトルコとイランの例が報告された。 村上氏は、家族に引き取られて養育されるが不払いの家内労働を担うエヴラットルックと呼ばれた子どもたち(多くは女児)について報告した。1926年のトルコ民法では養子を認める規定があったが、19世紀半ば以降に家内奴隷制度が禁止される中、戦争や貧困により大量に流入した女児などが奴隷として売られないよう、オスマン政府が推奨したことから、1960年頃までエヴラットルックが存在した。本報告では小説や回顧録、インタビューにもとづきエヴラットルックの成立と変容の過程をたどったF.オズバイの研究を紹介した。 細谷氏の報告では、2013年に改正された「保護者がいない、あるいは保護者に責任能力のない児童と青少年の援護に関する法」の内容について、主にペルシャ語・英語の報道記事、評論記事、論文、関連機関のホームページに掲載されている情報などをもとに、議論となった三点に関する考察がなされた。この法律はイラン革命前に成立した法律の改正という形をとっているが、養子と養親が結婚できる、養子の元の親の名前が身分証明書に記載される、独身女性が養親になることができるなどの条項が新たに付け加えられ、議論となっている。二人の報告に対して、会場からは、婚外子の問題、子への相続の問題、成文法に影響を与える慣習(法)の問題を中心に活発な議論が行われた。
(文責:森田豊子)
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