書籍紹介

園田 茂人[編著] 『連携と離反の東アジア (アジア比較社会研究のフロンティア III)』

編著者からの紹介

 

  2007年のことだったと思う。当時編者が所属していた早稲田大学大学院アジア太平洋研究科が中心になって提案したグローバルCOEプログラムのヒアリング会場で、こんな質問がなされた。「アジアの地域統合をテーマに政治・安全保障、経済、社会・文化の3つからアプローチすることになっているが、政治・安全保障や経済というのは、具体的にどのような研究をするのか、イメージしやすい。ところが、社会・文化からアプローチするといっても、結局、何をどのように研究するのか、わかりにくい。具体的な例を出して、どのような研究をするのか説明してほしい」。
 その時とっさに、後述する猪口孝教授のアジア・バロメーターを例に出し、「アジアの人びとを対象にした、意識や行動をめぐる研究が、その具体的な事例だ」と切り替えしたが、これで審査員の心象がよくなったからか、グローバルCOEプログラムは採択されるに至った。ヒアリング会場でこの質問をしたのが、東洋文化研究所で同僚となる羽田正教授であったことを知るのは、しばらくたってからのことである。
 振り返ってみると、社会学者や人類学者は、アジアの地域統合について発言らしい発言をしてこなかった。国際移民や国際結婚の増加にどう対応するか、多文化主義をどう実現するかといったレベルでの発言はあるものの、これを地域統合という次元、しかもアジアという空間的な広がり、で議論する社会学者や人類学者は、ユニークなアジア中間層連帯論や大衆文化交流論を展開してきた青木保(2005)以外、ほとんど見つからない。
  最初はアジアにおける経済成長を説明する概念として(Berger and Hsiao, 1998)、次に西欧的な「民主主義」や「人権」概念に対抗する手段として「アジア的価値」が一時賑やかに議論されたものの(青木・佐伯 1998)、そもそもアジアにおける価値が同一化しているかどうかといった実証研究は、アジア・バロメーターなど一部を除き、ほとんど行われてこなかった(園田 2008b)。それどころか、多くの社会学者・人類学者は依然としてみずからのフィールドに沈潜し、特定の地域の殻に閉じこもっている(園田 2008a)。

(序 より)

目次

序 アジア地域統合研究への社会学的アプローチ[園田茂人]
第1部 中国の台頭がもたらすインパクト
第1章 中国の台頭はアジアにどう認知されているか[園田茂人]
第2章 東南アジアの対日・対中認識──日本社会に潜む二つのファラシー[向山直佑・打越文弥]
第3章 越境する中国への受容と反発──アジア六カ国のデータから問い直す接触仮説[木原 盾・上野雅哉・川添真友]
第2部 アジアにおける流動性の高まりとその帰結
第4章 英語化するアジア?──アジアの学生に見る言語意識[井手佑翼・寶 麗格]
第5章 アジアの域内留学は活発化するか──留学志向の比較社会学[西澤和也・田代将登]
第6章 日系企業を好んでいるのは誰か──企業選好の心理メカニズム[園田 薫・永島圭一郎]
第3部 東アジア共同体への胎動?
第7章 ジャパン・ポップはソフト・パワーとして機能するか──映像コンテンツ視聴による対日イメージの変化に関する分析[町元宥達]
第8章 東アジア共同体成立の心理的基盤を探る──アジア人意識への社会学的アプローチ[園田茂人]
第9章 学生の意識に見るアジア統合の展望──アジア人意識と脅威認識を軸として[麦山亮太・吉川裕嗣]
文献一覧

情報

園田 茂人 [編]著 『連携と離反の東アジア アジア比較社会研究のフロンティア III』
勁草書房,   276ページ
2015年3月 ISBN: 978-4-326-65392-8
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アジアはアジアの夢を見るか?――学生と解き明かす、東アジアの胸の内『連携と離反の東アジア』編者・園田茂人氏インタビュー

園田 教授の関連著作

園田茂人[編著] 『勃興する東アジアの中産階級 アジア比較社会研究のフロンティア I』
園田茂人[編著] 『リスクの中の東アジア (アジア比較社会研究のフロンティア II)』
園田茂人ほか 監修『10年後の中国 65のリスクと可能性』
ステファン・ハルパー著 園田茂人,加茂具樹訳『北京コンセンサス --中国流が世界を動かす?』 園田茂人・新保敦子『教育は不平等を克服できるか (「叢書 中国的問題群」8)』


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