本書の特徴は、7年前に出版された初版のみずみずしさをそのままに、2017年という<現在>から編著者一同6名がそれぞれの担当章と、それらの章で対象とした事例を見つめ直したことである。重版の知らせは思いがけないもので、手直しのために許された時間はわずかだった。ただし、本書の主な読者が誰であるか、ある程度知ることができた。初版はおもに、国際開発援助の実践に関心のある若い読者に教科書として届いていたのである。
本書の意義は、人文社会科学の範囲ではあるものの、国際開発援助プロジェクトが関係者におよぼす影響にかんする学際的研究にチームで挑戦したことにある。全体を俯瞰するための分析枠組みを設定した上で、日本の政府開発援助(ODA)の主要な対象地域であるアジアを中心にラテンアメリカも含めて、現地調査に基づく6つの事例分析を提供している。それらは、いろいろな意味で若かった当時の編著者たちの視点から書かれている。
第2版では、事例分析の対象となった調査地とそこで暮らす人びとのその後の状況を伝えるコラムを新たに書き下ろした。さらに7年前とは異なる時代状況(難民問題の先鋭化、日本社会の構造変化など)を念頭に、本書の内容を読者が深読みできるよう新しい文献リストを添える工夫を凝らした。開発援助の研究や実践、人間のもつ脆弱性と可能性、フィールドワークに興味を抱いている学生や市民の方に広くお薦めいただければ幸甚である。
(編者を代表して、青山和佳)
序章 | 社会生活に埋め込まれる開発援助──複眼的視点からプロジェクトを診断する試み── |
第1章 | きこえるのは誰の声──ラタナキリ州の先住民と土地問題を支援する人たち── |
第2章 | 「見える」ものだけが援助の成果か──変化の媒体としての石川プロジェクト── |
第3章 | 誰が受益者だったか──インドネシアのNGO による小規模援助プロジェクト── |
第4章 | フィールドワークを生きる──フィリピン・ダバオ市の「バジャウ」とわたしたちの10年── |
第5章 | 都市の先住民であることと援助 ── メキシコ市のオトミー移住者と開発NGO の10年── |
第6章 | 「失敗」したプロジェクトのその後 ── ボリビア農村部の貯水池建設── |
事例の振り返り── 現場が語る援助のリアリティ── | |
終章 | 開発援助ではつくれない社会生活──なぜ複眼的視点が求められるのか── |
第2版の読者に贈る文献リスト | |
索引 |