取り組んでいるテーマ
1997年より、東南アジア海域世界に分散居住するSama-Bajauの人びとのうち、とくにフィリピン都市部に居住するグループについて、民族誌的手法により研究してきた。具体的には、南部フィリピンのミンダナオ島にあるダバオ市のSama-Bajau集落における社会経済的変化を追究してきた。しかし、Covid 19を契機にその研究が続けられなくなってしまった。その後、2022年からは、ダバオ市の沿岸部低所得者居住区に暮らし、貧困者とともに働いてきたCebuano女性(ミンダナオ農村部出身)の聞き書きと、同じく近代化を生きてきた炭坑夫の娘である実母(樺太生まれ、北海道育ち)の聞き書きを並行して行っている(「記憶を手渡す:ふたりの母から娘たちに」プロジェクト)。2023年より、ミンダナオ東部の元金鉱山跡にある有機農園に通い始め、女性たちの聞き書きの準備を進めている(「鉱山後を生きる」プロジェクト)。2024年より、自分自身の多言語話者としての経験にもとづく自伝的エッセイの執筆に取り組んでいる(「ふつうのマルチリンガル」プロジェクト)。これらのプロジェクトを通じて、他者を理解するとはいかなることか、ひとは自分の人生をいかに語りうるのか、他者の痛みをどのように感知したり分有したりできるのか、女性が語ることはいかにして可能か、という問いを追究したい。