地域に生きる人びとを「見つめてきた」研究者や専門家が、研究姿勢や行為を含めた自己を「見つめ直す」。
さらに、研究者や専門家たちによって研究対象として「見つめられてきた」人びとが覚醒し、研究者や専門家たちの姿勢や行為を自ら「見つめ返す」。
そのような双方向的で再帰的な関係性を普通のものとして理解する。
その上で「見つめる」/「見つめられる」という関係に固定されがちであった両者が、現代社会においてその関係性を超克しながら、新しい学知の場を創造し、そこで協働的な新しい知識生産や社会実践に挑戦するための、種々のアイディアやエッセンスを提示することを本書の目的としている。
いま、アカデミズムの狭いディシプリンに閉じ籠もることなく、多様な叡智と技能、経験を使う新しい学知が生まれつつある。
それは研究者や専門家のみならず、公共部門や市民、NPOなどが協働し知識生産と社会実践をむすぶ「新しい野の学問」である。
フィールドワーカーとして現実と向き合いながら、学知のあり方を問い直す。
はじめに-「俺たちは、学者のモルモットじゃない」 | |
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第1部:実践としての学問の試み-私が闘牛を始めた理由 | |
1. | フィールドに「入る」 |
2. | 地震に襲われたフィールド |
3. | 転回する研究者のポジショナリティ |
4. | 実践におけるポリティクス-震災後の「大文字の学知」 |
5. | 寄り添う「学知」-生活者のなかへ |
第2部:学問のあり方を問い直す | |
1. | 「野の学問」の誕生とその衰退 |
2. | 分断された知識生産の担い手たち |
3. | 「公共」に開かれていく学問 |
4. | アカデミズムと社会実践の闘争史-アメリカにおける公共民俗学 |
5. | 知の囲い込みからの脱却-モード2の知識生産の様式 |
第3部:「新しい野の学問」の可能性と課題 | |
1. | 「新しい野の学問」時代の到来 |
2. | 「新しい野の学問」に対応する研究者 |
3. | これからの学問の挑戦-「新しい野の学問」との交わり方 |
おわりに-共感し感応する研究者像 |
菅 豊
著
『「新しい野の学問」の時代へ―知識生産と社会実践をつなぐために』
岩波書店, 268ページ
2013年5月
東洋文化研究所にて過去に紹介した菅 豊 教授によるその他の著作