この本は、2016年3月に東洋文化研究所を退職された鎌田繁先生の古稀をお祝いして、若い仲間たちと力を合わせて出版したものです。ご存じのように、鎌田先生は、イスラーム神秘主義、シーア派、クルアーンといった主題で最先端のイスラーム研究を展開されるとともに、比較宗教学的なお仕事にも精力的に取り組んでおられます。31本の論文を収録するこの論文集も、鎌田先生のそうしたご関心の広がりを反映した、名実ともにイスラームの「内」と「外」にまたがる、豊かなものとなったと思っています。鎌田ワールドへの入り口として、ぜひお手に取っていただけると幸いです。
はじめに |
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第一部 方法を論じる |
第1章 宗教学とイスラーム研究 (小田淑子) |
第2章 スーフィズム・聖者信仰複合論再考 (赤堀雅幸) |
第3章 イスラームの外へ (中田 考) |
第二部 先人の足跡を見定める |
第4章 井筒俊彦の酔言理解 (井上貴恵) |
第5章 井筒俊彦のヴェーダーンダ哲学理解とその現代的意義 (澤井義次) |
第6章 陳舜臣訳『ルバイヤート』 (杉田英明) ――訳詩・解説の典拠とその特徴―― |
第7章 マニ教研究概説(二〇一一年―二〇年) (青木 健) |
第三部 アブラハムの宗教を探る |
第8章 法的宗教としてのユダヤ教とその現代的変容 (市川 裕) |
第9章 愛の等しさ (鶴岡賀雄) ――十字架のヨハネ「神人合一論」の要諦―― |
第10章 ヤーコプ・ベーメと「宗教経験からの論証」 (深澤英隆) |
第11章 エックハルトにおける神性の形而上学 (山崎達也) ――ドイツ語説教一〇九の哲学的解釈への試み―― |
第四部 イスラーム神秘主義とその周辺 |
第12章 イスラーム禁欲主義における愛 (加藤瑞絵) ――アフマド・イブン・ハンバル著『禁欲の書』の場合―― |
第13章 イスラーム神秘主義黎明期における聖者論 (澤井 真) ――「ワリー」概念再考―― |
第14章 フルーザーンファル著 『マスナヴィー注釈』を通してみる『マスナヴィー』の神秘主義的背景 (藤井守男) |
第五部 諸分派の知的営為 |
第15章 シーア派におけるイマーム観と神観 (平野貴大) ――同派思想史における伝承の受容と解釈についての一考察―― |
第16章 ラーズィーの『飾りの書』における一ハディースについての覚書 (野元 晋) ――イスマーイール派とイマーム派伝承の比較試論―― |
第17章 ヌサイル派源流思想研究のための予備的考察 (菊地達也) ――ハスィービー著『ラーストバーシュ書簡』の分析を通じて―― |
第18章 十二イマーム・シーア派参詣(ズィヤーラ)論におけるイマーム親族 (吉田京子) |
第19章 シーア派における一時婚 (青柳かおる) ――スンナ派との論争と現代における実践―― |
第20章 イバード派の内と外 (近藤洋平) ――救済資格に関する議論について―― |
第六部 イスラーム諸学の展開――前近代―― |
第21章 クルアーンにおける「二度の生死」 (下村佳州紀) ――原初契約との関連―― |
第22章 イブン・ハズムの法理論における啓示と理性の調和 (狩野希望) |
第23章 解放選択権をめぐるハディースと法学説の展開についての一考察 (柳橋博之) |
第24章 覚え詩作りに興じるマムルーク朝期のウラマー (森本一夫) ――ムハンマドに似ていた人を探せ―― |
第七部 イスラーム的知の近現代的展開 |
第25章 ムハンマド・アブドゥの「教育」思想 (飯塚正人)) |
第26章 現代的「イスラーム法」治国家の可能性 (松永泰行) ――革命後イランにおける試行錯誤に関する一考察―― |
第27章 カンボジアのチャム人ムスリム (大川玲子) ――呪術的知の獲得とジェンダー―― |
第八部 世界の哲学的・科学的把握 |
第28章 ドゥーナシュ・イブン・タミームとギリシア天文学知による神の存在証明(三村太郎) ――イスラーム宮廷におけるユダヤ教徒の生存戦略―― |
第29章 「イスラーム的知」の形成 (小林春夫) ――後期イスラーム思想史におけるファルサファとカラーム―― |
第30章 哲学書としての『医学典範』 (矢口直英) ――ラーズィーの『医学典範』解釈―― |
第31章 原子論的存在論の遠い道のり (塩尻和子) |
あとがき |
森本一夫 井上貴恵,小野純一,澤井真 編著『イスラームの内と外から――鎌田繁先生古稀記念論集』
ナカニシヤ出版, 680ページ 2023年3月 ISBN: 978-4-7795-1716-7
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