書籍紹介

佐橋亮・梅川健 編『トランプのアメリカ 内政と外交、そして世界 』(東京大学出版会)

著者からの紹介

 2025年1月に再スタートしたドナルド・トランプ政権は、アメリカのみならず世界を揺さぶっている。戦後アメリカは、人権や民主主義の観点から着実に進歩をみせてきていたが、現在の分極化は留まるところを知らない。そして、超大国として戦後国際秩序において中心的な役割を果たしてきたアメリカが、国際協調に背を向け、自国利益を追求し、また普遍的価値観を推進しようとしていないことに、世界は衝撃を受けている。
 これまでの世界が過度にアメリカに依存してきたことは、トランプ政権の批判を受け入れるまでもなく歴然とした事実であり、アメリカのパワーが相対的に低下し、新興国の成長が著しい時代において、世界はアメリカのみに依存しない新たな秩序の形成に向けて動き始めたということもできるのかもしれない。しかし、トランプ政権の動きがあまりにも早いために、その動揺は大きく、また例えば国際援助体制が受けている打撃に見られるように、多くの人道的な問題も深刻化している。世界の自由貿易体制も大きく揺らいでおり、戦後経済の柱が揺さぶられているとも言える。仲介を好むトランプ大統領によって、仲介が成功した地域紛争もあるが、ウクライナ戦争や中東は依然として戦禍に苦しんでいる。
 果たして、トランプ政権の動きと国際秩序の行方をどのように理解すればいいのか。なぜアメリカは急速に世界への向き合い方を変えたのか。それはトランプ政権後も続くのか。そもそもアメリカという国が内政において何を重視しようとしているのか。それを動かしている力は何か。どうしてトランプ政権のように前例にとらわれない政策の実行が可能なのか。トランプ政権を止められるものは、もはや何もないのか。
 本書では、そのような疑問に答えるべく、15名の著者がさまざまな角度からトランプ政権の内政、外交、およびトランプ政権を見つめる各国の視線について議論した。
 議論の中では、2024年のアメリカ大統領選挙がアメリカの民主主義や外交にどのような意味を持っているのか、現在のアメリカにおいて大統領権限はどれほど肥大化しているのか、議会や政策機関の役割とは何か、有権者、特に労働者は何を求めているのか、宗教の役割は何かなど、多様な角度から議論が展開されている。トランプ外交や、それに対する中国や北朝鮮、ヨーロッパ、ラテンアメリカの反応についても論考が寄せられており、多角的にアメリカと世界の関係について考察することができる。
 本書は、「UP+」という東京大学出版会が展開している新たなシリーズの一冊として出版されている。過去には、同じ佐橋の編集による『バイデンのアメリカ』も出版されているが、このシリーズでは、学生が手に取りやすいように、読みやすい文体と今後の学習につながるような参考文献の提示をしている。2段組で250ページ弱と分量はあるが、本書を読んでいただければ、国際政治やアメリカ政治研究が現在どのような議論をしているのか理解することができるだろう。

目次

はじめに
【特別掲載】第二次トランプ政権を考える(久保文明:防衛大学校長・東京大学名誉教授)
Ⅰ 内 政
1抑制と均衡?(梅川 健) 
2分極化の時代の連邦議会(待鳥聡史:京都大学大学院法学研究科教授)
3二〇二四年米大統領選挙(渡辺将人:慶應義塾大学総合政策学部教授) 
4労働者層をめぐる二大政党の変化(松井孝太:杏林大学総合政策学部准教授)
5トランプ2・0における宗教と文化戦争(藤本龍児:帝京大学文学部教授)
6アメリカの連邦制と外交(梅川葉菜:駒澤大学法学部准教授)
Ⅱ アメリカにおける内政と外交の交錯
7トランプ外交とは何か(佐橋 亮)
8ガザ危機からみる二〇二四年アメリカ大統領選(三牧聖子:同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
9国際主義の動揺とシンクタンクの変容(宮田智之:帝京大学法学部教授) 
10通商政策から見るトランプ第二政権の内政と外交の交錯(舟津奈緒子:公益財団法人日本国際問題研究所研究員)
Ⅲ アメリカをみつめる世界
11トランプ2・0と対峙する中国(山口信治:防衛省防衛研究所主任研究官)
12北朝鮮の対外認識と米朝関係(倉田秀也:防衛大学校教授)
13「アメリカ問題」に苦悩するヨーロッパ(合六 強:二松学舎大学国際政治経済学部准教授・政策研究大学院大学客員研究員)
14ラテンアメリカにおける米中対立の展開(大澤 傑:愛知学院大学准教授)
あとがき

情報

佐橋亮 ・梅川健 編
『トランプのアメリカ 内政と外交、そして世界』 (U.P. Plus)

東京大学出版会, 248 pages, 2025.8, ISBN: 978-4-13-033309-2

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