本書は、戦前期の中国東北、モンゴル、朝鮮など、多民族社会に関するさまざまな歴史資料をもとに、これらの地域における人とモノの流れを横断的に捉え、かつ1945年前後の歴史の連続性に着目した点に特色があります。
辻は第一章「戦前期朝鮮~中国華北における除虫菊栽培とその展開――済州島を中心に」およびコラム1 「京城帝国大学の満洲モンゴル探検」を執筆しました。第一章はヨーロッパで発見されたシロバナムシヨケギク(除虫菊の一つ)が19世紀末に日本に導入されたのち、20世紀前半に朝鮮半島で栽培が広がったことを統計や文献資料、現地調査を通じて描き出しています。1930年代には済州島が朝鮮半島の除虫菊生産の8割以上を担いました。同時期の中国大陸では栽培が本格的には行われませんでしたが、中国東北部(旧満洲)での試験栽培ののち、華北の日本占領地域で栽培が本格化しました。本章ではまた、除虫菊が蚊取線香をはじめとする殺虫剤の原料として、軍事的に活用されたことについても触れています。
はじめに[広川佐保] | |
第一章 | 戦前期朝鮮~中国華北における除虫菊栽培とその展開――済州島を中心に[辻大和] |
コラム1 京城帝国大学の満洲モンゴル探検[辻大和] | |
第二章 | 一九一〇~一九二〇年代における満鉄公所の活動について――東部内モンゴルとの関わりを中心に[大野太幹] |
コラム2 史料から見る近代日本とモンゴルの関係――国立公文書館アジア歴史資料センター公開史料を中心に[大野太幹] | |
第三章 | センゲリンチンの「遺産」――昌図金氏と「七里界」[広川佐保] |
コラム3 「在外朝鮮人事情研究会」とその出版物――一九二〇年代、朝鮮と中国東北・モンゴル・沿海州をつないだもの[広川佐保] | |
第四章 | 西遼河流域における天然ソーダ資源の開発――一九一〇~一九二〇年代における日中企業の活動を中心に [烏尼爾(ウニル)] |
コラム4 在韓モンゴル人とモンゴルタウン[深井啓] | |
第五章 | 東部内モンゴルにおける大倉財閥の農場進出――華興公司を中心に [ボルジギン・ブレンサイン] |
コラム5 「蒙疆大米」はいかに誕生したのか――内モンゴルにおける朝鮮族の移住[ボルジギン・ブレンサイン] | |
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編著者・執筆者紹介 |
ボルギジン・ブレンサイン・広川佐保・辻大和 編著
『東アジアにおける移動と交錯―内モンゴル、中国東北、朝鮮をつなぐ近現代地域史』
明石書店, 244 pages, 2025.3, ISBN: 978-4-7503-5931-1