書籍紹介

北村紗衣・小森謙一郎・嶋内博愛・戸塚学 編、上原究一ほか著『シンデレラの末永く幸せな変身』(水声社)

著者からの紹介

ディズニープリンセスだけじゃない!!
白馬にまたがるシンデレラや、男の子のシンデレラも?
昔話から、絵画、オペラ、小説、現代映画まで……
世界各地で生まれた多様なシンデレラ物語を読み解く。
水声社ブログより引用

  上記宣伝文の通り、本書は古代から現代まで、洋の東西にわたる多種多様なシンデレラ物語を、世界各国の様々な時代の文学を研究対象とする研究者が一般向けに紹介した書籍です。上原は俗に「中国のシンデレラ」と呼ばれている段成式『酉陽雑俎』続集巻1「葉限」というお話を取り上げた第7章「葉限――「中国のシンデレラ」は漢民族のシンデレラだったのか?」を執筆しました。
  「葉限」は、9世紀の中国で文字化されていたシンデレラ物語だとして南方熊楠が紹介したことで有名なお話です。西洋でシンデレラ物語が文字化されるのは17世紀に入ってのことですが、シンデレラ物語はもともと口頭で伝承される民話ですから、西洋よりも中国でずっと早く文字化されていたからといって、この類型の話が中国発祥だとは限りません。西洋でも中国でも、長年口頭で語り継がれ続けてきた話が、たまたま9世紀なり17世紀なりに文字で記録されたに過ぎないはずなのです。ですから、シンデレラ物語がいつどこで生まれたものなのかについては、さまざまな学問分野の視点からたくさんの仮説が出されています。
  ですが、私が今回扱う問題はそこではなく、別のところにあります。9世紀の中国の本に「中国のシンデレラ」と呼ばれる話が載っていると聞くと、シンデレラ物語は中国でも古くから親しまれていて、中国の民族的マジョリティである漢民族の間に、1000年以上にわたって連綿と受け継がれてきたものなのだ、という印象を受けるのではないでしょうか。ところが、単純にそう考えるわけにはいかないのです。いったいどうしてそうは考えられないのか、「葉限」がどのように書かれ、そしてどのように読まれてきたのかをたどりながら明らかにしました。

目次

はじめに 北村紗衣
1シンデレラ論の地平について――カルロ・ギンズブルグと白い神話学
小森謙一郎
2継母と嫉妬深い六人の娘たち――バジーレの「灰かぶり猫」をめぐって
倉科岳志
3新旧論争を踏まえてペロー「サンドリヨン」を読んでみる
木元豊
4イラストでよみがえる古典――ドレ挿絵のペロー『昔話集』
福田美雪
5灰かぶりの系譜――十九世紀初頭の舞台作品を中心に
嶋内博愛
6中欧のもうひとりのシンデレラ――映画『灰かぶり姫の三つの願い』とボジェナ・ニェムツォヴァー
桂元嗣
7葉限――「中国のシンデレラ」は漢民族のシンデレラだったのか?
上原究一
8東アジア古典世界のシンデレラ
福田武史
コラム(1) 日本古典演劇のなかの「継子」
日置貴之
9占領下日本のシンデレラ――安岡章太郎『ガラスの靴』
戸塚学
10あれもこれもシンデレラ?――物語の影響力
北村紗衣
コラム(2) レジリエンスあるいはわからなさの試練――ポムラ版シンデレラをめぐって
浅間哲平
参考文献
おわりに 嶋内博愛

情報

北村紗衣・小森謙一郎・嶋内博愛・戸塚学 編、 上原究一 ほか著
『シンデレラの末永く幸せな変身』

水声社, 252 pages, 2025.2, ISBN: 978-4-8010-0851-9 C0098

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東洋文化研究所教員の著作