本書は、社会学と倫理学の視点から、近現代日本の食規範と実態の変遷をたどり、現代における「食の豊かさ」とその剥奪状態としての「食の貧困」とは何かを探求した一冊です。
「2人に1人」が貧困状態にあるとされるシングルマザーの食生活調査をはじめ、食の社会学や食の倫理学の学説史、日本とフランスの食料政策など、広範な内容を収録しているため、さまざまな角度から読んでいただける一冊です。本書の発展的段階として、現在は東文研で東アジアにおける「食の豊かさ」比較調査に取り組んでおります。
「善き食生活」とは何か ——。「崩食」を背景として、栄養学や伝統・自然など多様な指針が乱立するいま、食の豊かさ/貧困をどう再定義するかが問われている。社会学と倫理学を結び合わせて「食潜在能力」の考え方を提示し、日本食文化の歴史的考察と現代の食卓調査から、私たちの食生活を問い直す力作。
序章 | あいまいな「食の豊かさ」、みえにくい「食の貧困」 |
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1 | 現代=再帰的近代の食べ手 |
2 | 潜在能力としての「食の豊かさ」 |
3 | 相対的剥奪としての「食の貧困」 |
4 | 本書の内容 |
第Ⅰ部 | 現代の食をどう捉えるか—— 社会と倫理の結節 |
第1章 食の社会学 | |
1 | 農村社会学から食の社会学へ |
2 | 食の社会学の発展史 |
3 | 食の近代化論 |
4 | 食事モデルと社会表象 |
5 | 近代家族と戦後体制 |
第2章 | 食の倫理学 |
1 | 基本命題 |
2 | 功利主義、義務論、徳倫理 |
3 | ウェルビーイング(生活の質)研究 |
4 | フード・インセキュリティ研究 |
5 | 潜在能力アプローチの可能性 |
第Ⅱ部 | 食規範と実態の歴史的変遷 |
第3章 | 「第一の食の近代」の萌芽 |
1 | フードシステムの近代化 |
2 | 近代家族と栄養学 |
3 | 「米食型食生活」の成立 |
第4章 | 戦後「食の近代」の再出発 |
1 | 食生活の戦後体制の確立 |
2 | フードシステムの戦後体制と副作用 |
3 | 「日本型食生活」の成立 |
4 | 食事型にみる家族の戦後体制の矛盾 |
第5章 | 「第二の食の近代」の徹底化 |
1 | 崩食論の本質 |
2 | 食品安全問題と法的規制化 |
3 | 食育と栄養主義 |
4 | 和食の遺産化 |
5 | 食の貧困と脱政治化 |
第Ⅲ部 | 現代日本の「善き食生活」と「食の貧困」 |
第6章 | 食潜在能力—— 理論から実践へ |
1 | 食潜在能力理論の応用 |
2 | 本書で用いるデータ |
3 | 分析方法 |
第7章 | 「善き食生活」の多様性と共通性 |
1 | 「善き食生活」の主観的価値づけ —— 健康から品質まで |
2 | 食事モデルの客観的評価 —— 食事回数から食事内容まで |
3 | 食生活言説と実態との相克 |
第8章 | 経済的貧困では捉えられない「食の貧困」 |
1 | 「食の貧困」とは十分な食料がないことか |
2 | 貧困シングルマザーの食生活 |
3 | シングルマザーの食生活特徴 |
4 | シングルマザーの「食の貧困」測定 |
第9章 | 食潜在能力の測定 |
1 | 「善き食生活」と「食の貧困」の認定 |
2 | 食潜在能力の格差はどこにあるか |
3 | 現代社会の縮図としての食生活 |
第10章 | 食料政策の体系化 |
1 | 食生活支援の実態とニーズ |
2 | 食料政策の国際的動向 —— フランスを中心に |
3 | 日本型「食料政策」の体系化へ |
終章 | 豊かさの中の貧困、貧困の中の豊かさ |
1 | 食の豊かさ、食の貧困とは何であったか |
2 | 研究の制約と批判 |
3 | 食の豊かさの哲学へ |
註 | |
あとがき | |
付 録 | |
参考文献 | |
図表一覧 | |
索 引 |
上田遥 著
『食の豊かさ 食の貧困ー近現代日本の規範と実態』
名古屋大学出版会, 368 pages, 2024.9, ISBN: 978-4-8158-1166-2