沖縄研究のパイオニアである伊波普猷(1876−1947)という思想家の名前は、それほど有名ではないかもしれません。
しかし、1879年のいわゆる「琉球処分」によって、大日本帝国の版図へと組み込まれた「琉球・沖縄」が辿ってきた道程は、伊波普猷のテクストなしには知ることができません。
本書では特に、「日琉同祖論」(「日本」と「琉球・沖縄」が同一のルーツを持つとする主張)という問題含みの言説を分析対象としています。
伊波の「日琉同祖論」を、擁護/批判という二項対立的図式で理解するのではなく、その主張の背景にある歴史(文化・政治・経済など、あらゆる領域が複雑に交差する織物としての歴史)を踏まえながら、その思想的可能性および限界を、脱構築的読解によって浮かび上がらせることに注力しました。
不完全な一冊ですが、本書が「沖縄」と出会う一つの契機となることを願っています。
序章 |
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はじめに |
第一節 本書の目的 |
1–1 脱構築的読解 |
1–2 「政治哲学」と〈政治神学〉 |
1–3 伊波のテクストの只中において生じる脱構築 |
第二節 関心の所在 |
第三節 本書の構成 |
第一章 沖縄近現代思想史における根幹問題としての「主体」 |
第一節 伊波普猷という問題──「同化」と「異化」をめぐって |
1–1 戦略的同化主義 |
1–2 同化主義批判 |
第二節 「政治」と「倫理」 |
第三節 「政治」と「主体」 |
第四節 伊波普猷の「日琉同祖論」と「政治」 |
第二章 「政治哲学」としての「初期日琉同祖論」 |
第一節 「個性」の領域 |
第二節 旧慣温存から土地整理へ──沖縄における資本主義の浸透 |
第三節 「辺境」としての沖縄 |
第四節 「個性」を配置する「神」 |
第三章 蘇鉄地獄下における「沖縄人」の再人種化 |
第一節 蘇鉄地獄 |
第二節 「沖縄的労働市場」と「沖縄人」の再人種化 |
2–1 「沖縄的労働市場」と「沖縄人」 |
2–2 「擬似エリート層」と「日本人」への同化 |
第三節 「沖縄問題」の誕生──「さまよへる琉球人」と沖縄青年同盟 |
第四節 沖縄救済論──救済されるべき「対象」としての「沖縄」 |
第四章 郷土論的展開──純粋無垢な共同体「まきよ」の発見と「稲」 |
第一節 資本主義への対抗としての柳田民俗学 |
第二節 郷土研究──病への処方箋 |
第三節 伊波普猷の「政治」 |
第四節 悪い「稲」──原初の租税と奴隷 |
4–1 「奴隷制度」の「魔術」的起源 |
4–2 原初の租税としての「稲」 |
第五節 善い「稲」──純粋無垢な共同体「まきよ」 |
第五章 記紀神話への挑戦──アマミキヨの南漸 |
第一節 〈原日本〉=〈原沖縄〉としての「日琉同祖論」 |
第二節 北上説と南漸説──「稲」の来歴 |
第三節 「政治」のはじまり──「父」による「母」の征服 |
第四節 遠来神の足跡 |
第五節 折口信夫の神学 |
第六章 〈政治神学〉としての「日琉同祖論」 |
第一節 「祖先神」と「遠来神」の融合 |
第二節 伊波普猷の戦争責任──「決戦場・沖縄本島」をめぐって |
第三節 「真の神」の到来──伊波普猷における政治的ロマン主義 |
第四節 国家という場所──「海部」と「天孫」の二項対立の止揚 |
終章 予期せぬ「他者」の到来と、消去不可能な「政治」──〈政治神学〉としての「日琉同祖論」の脱構築 |
あとがき |
参考文献一覧 |
索引 |
崎濱紗奈 著 『伊波普猷の政治と哲学——日琉同祖論再読』
法政大学出版局, 326ページ 2022年10月 ISBN: 978-4-588-15130-9
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