2007年に出版した本を15年ぶりに増補新装版として出していただきました。新たに3章加えて、13章立てといたしました。これと、『共生のプラクシス――国家と宗教』、『危機の時代の哲学――想像力のディスクール』とあわせて、当初予定していました三部作が出揃いました。字義通りの浅学菲才のために15年もかかってしまい、お恥ずかしい限りです。それでもこの三部作なしには、『中国哲学史――諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで』(中公新書、2022年)はできあがらなかったかと思いますので、関連書籍として挙げておきたいと思います。
| はじめに |
| 凡例 |
| 序 文字の誕生――夜哭く鬼 |
|---|
| I 言語と支配 |
| 第1章 正しい言語の暴力――『荀子』 |
| 1 正名とは何か |
| 2 記号の恣意性 |
| 3 名を制定する──旧名、先王、後王 |
| 4 礼儀を制作する |
| 5 歴史的な次元を設定する意義──正統性、政治権力 |
| 6 名を捨てる |
| 第2章 どうすれば言語を抹消できるのか──言尽意/言不尽意論 |
| 1 言は意を尽くす──欧陽建 |
| 2 言は意を尽くさず、象も意を尽くさず――荀粲 |
| 3 尽意追求の論理――王弼(一) |
| 4 超越論的言語としての〈忘却された言語〉――王弼(二) |
| 5 志通舎言と忘象得意――王弼と『荀子』の出会い |
| 第3章 オラリテの次元──『荘子』 |
| 1 蹄筌の故事の読み方 |
| 2 書き言葉への恐れ |
| 3 伝達できない意と現前 |
| 4 根源的なオラリテ──『荘子』と王弼の差異 |
| 第4章 言語の政治的支配は可能か――儒家・墨家・道家・法家 |
| 1 J・G・A・ポーコックと古代中国哲学 |
| 2 儀礼、法、正名──儒家 |
| 3 上位者との同意──墨家 |
| 4 言語と権力の拒否──道家 |
| 5 不同意の維持──法家 |
| 6 儀礼、言語、権力の総合──荀子 |
| II 起源と伝達 |
| 第5章 文学言語としての隠喩――劉勰『文心雕龍』 |
| 1 「はじまり」の詩──『詩経』 |
| 2 『詩経』の反復──『楚辞』 |
| 3 差異の原理としての『楚辞』 |
| 4 「はじまり」の抹消と『詩経』の絶対的基礎づけ |
| 5 自然化の拡張──修飾の取り込み |
| 6 自然の限界と逆転──賦 |
| 7 声は楽器を模倣する──音楽 |
| 8 興と比の分割――起と附、隠と顕 |
| 9 隠喩の忘却──「はじまり」と自然の完成 |
| 10 正しい文と諷喩の精神 |
| 11 直叙としての賦 |
| 12 「古い掟」に背くこと――法の禁止と法の後に |
| 第6章 他者への透明な伝達――朱子学 |
| 1 古文の独自さ――韓愈 |
| 2 文の道への還元――朱熹 |
| 3 誠意による自己充実――自-発の哲学 |
| 4 独我論に陥らないために――格物致知 |
| 5 理想的な他人――自新の民 |
| 6 自己啓蒙の拡大――天地万物はわたしと一体である |
| 7 倫理・政治・歴史の可能性 |
| 第7章 古文、白話そして歴史――胡適 |
| 1 宋代から清代までの古文 |
| 2 古文と胡適 |
| 3 「打鬼」のための古文 |
| 4 換骨奪胎と古への参照 |
| 5 無意/有意の白話 |
| 6 道統という魔道――胡適と韓愈 |
| 7 「中国」という伝達空間 |
| III 他者の声 |
| 第8章 公共空間と語ること――ハンナ・アーレント |
| 1 「悪の陳腐さ」と判断の必要 |
| 2 他者たちと言語を通じて関係する空間 |
| 3 公共空間の喪失 |
| a 政治のもう一つの条件としての倫理――赦しと約束 |
| b 他者を欠くこと――私的領域の侵入 |
| 4 制限された複数性 |
| a ペルソナの現れる空間 b 友人の共同体 c 再現前=代理の空間 |
| 5 複数性の還元 |
| a 代表的思考としての判断力 b 活動者の注視者への還元、狂人の排除 |
| 6 先取りできない未来へ |
| 第9章 誰が他者なのか――エマニュエル・レヴィナス |
| 1 他者の区別という政治 |
| 2 「全てに、全ての人に対する責任」と責任の限界 |
| 3 もう一人の自己 |
| a 友愛の共同体 b 「わたしはわたしの息子である」 |
| 4 他者のヒエラルキー |
| a 女性の忘却あるいは貶視 b 享受される動物 |
| 5 他者に正義を返すこと |
| 第10章 速朽と老い――魯迅ス |
| 1 速朽の文 |
| 2 死を返す |
| 3 魯迅の終末論 |
| 4 メシアニズムなきメシア的なもの、あるいはメシア的平和の終末論 |
| 5 語ること |
| 6 老いた主体 |
| 7 つぶやく母の声 |
| IV 救済の方位 |
| 第11章 中国哲学の現在地――マイケル・ピュエットの挑戦 |
| 1 マイケル・ピュエットとマーシャル・サーリンズ |
| 2 ピュエットが読むサーリンズ――『神となる――古代中国における宇宙論、犠牲、自己神化』(二〇〇二年) |
| 3 気まぐれな世界に向かう |
| 4 〈かのように〉の礼 |
| 5 中国哲学――哲学的な人類学、人類学的な哲学として |
| 第12章 尹東柱はわれらの同時代人 |
| 1 遺言 |
| 2 拒絶 |
| 3 墜-星 |
| 4 思想としての詩 |
| おわりに |
| 第13章 声の乱調――中国と女性 |
| 1 キェルケゴールと女性 |
| 2 女性、植物、言語――自然の精神もしくは大地の精神 |
| 3 中国的モダニズムと女性の声――魯迅 |
| 4 鬼を打つ速朽の文 |
| 5 魯迅と女性の声 |
| 6 子どもが登場するときに女性が消える――陳凱歌『子どもたちの王様』(一九八七年) |
| 7 弟としての女性――来娣 |
| 8 救済がないことを示す子どもたち――反復する者としての王福 |
| 9 道は屎尿にあり――牛飼いの少年 |
| おわりに 中国的モダニズムのゆくえ |
| 註 |
| あとがき |
| 増補新装版へのあとがき |
| 参考文献 |
| 人名索引/事項索引 |
中島隆博 著 『残響の中国哲学 増補新装版――言語と政治』
東京大学出版会, 384ページ 2022年5月 ISBN: 978-4-13-010154-7
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