本書は危機の時代における批判(クリティーク)の可能性を探究したものである。全体は四部に分かれている。第一部「近現代における哲学に批判」では、主権や民主主義、正統性や憲法といった諸概念が、沖縄や日本そして中国というトポスから考察される。第二部「近代日本における哲学の批判」では、近代日本においてマルクス主義に関連した思想家たち(三木清、梅本克己、廣松渉)の批判性が検証される。第三部「中国における歴史の批判」では、中国の歴史意識に浸透する直筆や統への欲望そして複数性への開けが論じられる。第四部「東アジアにおける表象の批判」では、表象文化論の観点から中国と西洋の間で美学や芸術そして映画がどのように論じられるのかを試みた。
危機を転機あるいは好機に変えるためには、新たな想像力が必要だが、それを本書で取り上げた諸概念や思想家から汲み取っていただければ幸いである。
| はじめに |
|---|
| 第I部 近現代における哲学の批判 |
| 第1章 主権のパルタージュ(I)原子力と主権 |
| 第2章 主権のパルタージュ(II)民主主義と立憲主義 |
| 第3章 沖縄の語り方――大田昌秀と伊波普猷 |
| 第4章 記憶と正統――丸山眞男における法・暴力・歴史 |
| 第5章 不服従の遺産――1960年代の竹内好 |
| 第II部 近代日本における哲学の批判 |
| 第6章 関係概念としての東アジア,周辺としての東アジア――廣松渉と三木清 |
| 第7章 言葉の言葉――三木清の普遍性と宗教性 |
| 第8章 批判と道徳――クロード・レヴィ=ストロースと梅本克己 |
| 第III部 中国における歴史の批判 |
| 第9章 中国の歴史意識――歴史叙述と正しさ |
| 第10章 統への欲望を断ち切るために――中国史学史 |
| 第11章 司馬遷『史記』の想像力――鳥,龍,星の友情 |
| 第IV部 東アジアにおける表象の批判 |
| 第12章 美学にとって「中国」とは何か――朱光潜の中国的モダニズム |
| 第13章 線とオリエント――ヴァーチャル・リアリティーのもう一つの語り方 |
| 第14章 舌のない人間の様に――撫順炭鉱での沈黙 |
| あとがき |
中島隆博 著
『危機の時代の哲学─想像力のディスクール』
東京大学出版会, 432ページ 2021年8月 ISBN: 978-4-13-010151-6