本書は岩波世界歴史選書(全15冊)の第一冊として 2003 年に刊行され、その後 2014 年に増補新版が刊行されましたが、増補新版を底本として、この度岩波現代文庫として刊行されたものです。
現代文庫への収録にあたって、新たに「あとがき」が付され、人口に膾炙した「悪貨が良貨を駆逐する」というような代替的な関係よりも、歴史上の貨幣現象はむしろ補完的関係にみちあふれていること、貨幣の多元性は交換の多様性に由来しているがゆえに自然なことなのであるのに、アリストテレス以来の分業が交換の必要条件であるとする論理設定が、市場と貨幣の重層性を理解することをさまたげてきたこと、2007 年モルドバ出土のキプチャク汗国の銀錠が、元朝の紙幣流通と西欧の銀貨鋳造ブームの共時性を指摘し、13 世紀を世界史の分水嶺とした本書の仮説を支持していること、などが述べられています。
序章 貨幣の非対称性 |
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1 合算できない貨幣たち |
2 手渡される貨幣の論理 |
3 還らない貨幣 |
4 多元的貨幣論へ |
第一章 越境する回路――紅海のマリア・テレジア銀貨 |
1 マリア・テレジア銀貨の謎 |
2 英仏伊白による鋳造競争 |
3 銀貨流通の実態 |
4 回路としての貨幣 |
5 マリア・テレジア銀貨が語る貨幣論 |
第二章 貨幣システムの世界史 |
1 見えざる合意 |
2 地域流動性と支払協同体 |
3 銅貨の世界と金銀貨の世界――手交貨幣の二極面 |
4 分水嶺としての一三世紀 |
5 本位貨幣制と世界経済システム |
第三章 競存する貨幣たち―― 一八世紀末ベンガル、そして中国 |
1 錯綜する貨幣 |
2 超零細額面貨幣、貝貨の世界 |
3 競存する銀貨 |
4 市場の重層性と通貨の競存 |
5 銀流入はインド・中国に何をもたらしたのか |
第四章 中国貨幣の世界――画一性と多様性の均衡構造 |
1 時代を超越する枠組――「土銭」・「郷価」の世界 |
2 銅銭経済の論理 |
3 二つの紙製通貨――鈔と票 |
4 上下「不」通の構造――秤量銀制度創出の動機 |
5 自律的個別性と他律的画一性 |
第五章 海を越えた銅銭――環シナ海銭貨共同体とその解体 |
1 ジャワの万暦通宝 |
2 中国における基準銭 |
3 中世日本における基準銭の形成とその消失 |
4 中世日本における銭貨流通の特質 |
5 東南アジアにおける銭貨流通 |
6 環シナ海銭貨共同体の遠近 |
第六章 社会制度、市場、そして貨幣――地域流動性の比較史 |
1 貨幣と制度的枠組 |
2 自己組織化された地域流動性――伝統中国における小農と市場町 |
3 地域流動性の他律的調整――絶対王政期以前の西欧 |
4 地域流動性の座標 |
5 地域的信用と地方銀行 |
6 伝統市場の四類型 |
第七章 本位制の勝利――埋没する地域流動性 |
1 一国一通貨原則の歴史性 |
2 小農経済と在来通貨の変容 |
3 紙幣と兌換性 |
4 脱現地通貨化と恐慌 |
終章 市場の非対称性 |
1 貨幣需要の季節性と通貨の非還流性 |
2 「財の交換」と「時の交換」 |
3 市場階層の不整合 |
4 市場の水平的連鎖と垂直的統合 |
補論 東アジア貨幣史の中の中世後期日本 |
1 常識の非「常識」 |
2 明代私鋳の北宋銭、開元銭、そして永楽銭 |
3 階層化する環シナ海の銭貨――悪貨は良貨を駆逐せず |
4 分岐する近世東アジア |
あとがき |
増補新版あとがき |
岩波現代文庫版あとがき |
注 |
参考文献 |
黒田明伸 著
『貨幣システムの世界史』
岩波現代文庫, 372ページ
2020年2月