「歴史」は、誰のものか―
人びとが語り、紡いできた歴史、そして、人びとが歴史とともに、歴史を糧に生きていくという行為に目を向け、学問と社会の対話を目指す「パブリック・ヒストリー」は、いま世界的な広がりを見せている学問分野です。 本書は、歴史学や社会学、文化人類学のみならず、文化財レスキューや映画製作等、さまざまな歴史実践の現場より、歴史を考え、歴史を生きる営みを紹介しています。人間と歴史との関わりを考え、日常に活かしていくための知識と方法を伝えるパブリック・ヒストリーを考えるための日本初の概説書です。
パブリック・ヒストリーは時代、対象、地域の壁を乗り越える歴史学の営為です。どんなに古い過去の歴史であろうと、またどんなに遠くの場所の歴史であろうと、その歴史が《いま、ここ》に生きる人びとにとって重要な意味をもっていれば、パブリック・ヒストリーの課題となり得るのです。パブリック・ヒストリーとは、過去を過去のこととして過去に留め置くのではなく、過去と現在との終わることのない対話を通じて、過去を現在に関わるものとして現在に引き戻して、さらにこれからの未来に引き伸ばして、人びとのために役立てる「現在史」なのです。
現代社会において、歴史の重要性は恐ろしいほどに弥増すばかり。いま私たちが生きている世界で生起している深刻な諸問題は、そのすべてが歴史的課題として扱うことが可能であるといっても過言ではありません。そのようななか、パブリック・ヒストリーの存在感は、今後さらに増大していくことでしょう。パブリック・ヒストリーという言葉やその意味内容が人口に膾炙するまでに、まだいましばらく時間を要しそうな日本において、本書がその研究と実践の一端を示し、今後、日本でも擡頭するであろうパブリック・ヒストリーの口火を切ることができれば幸いです。(「序言」より)
序文 | ||
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パブリック・ヒストリー―現代社会において歴史学が向かうひとつの方向性 | 菅豊 | |
Ⅰ 理論 Theories | ||
パブリック・ヒストリーとはなにか? | 菅豊 | |
〈ありのままの事実〉を支えるもの―近代日本における歴史実践の多様性 | 北條勝貴 | |
プラクティカル・パストと日本史―中世歴史実践史ノート | 中澤克昭 | |
Ⅱ 実践 Practices | ||
《歴史家とは誰か? Who is the Historian?》 | ||
歴史と芸―神楽の過去を発掘する/演じるという歴史実践 | 俵木悟 | |
いまに生きる、いまに生かす歴史的空間における歴史実践―「Oターン郷土誌家」を目指して | 西村明 | |
滋賀県下の字誌にみる歴史実践 | 市川秀之 | |
コラム:「武田家属将美名録」はなぜ配られたのか―ある末裔の歴史実践 | 及川祥平 | |
《協働 Collaboration》 | ||
「八重子の日記」をめぐる歴史実践 | 宮内泰介 | |
更地と工事現場からの文化創造と歴史実践―津波被災地における復興キュレーション | 加藤幸治 | |
朝鮮・日本の歴史認識と市民的協働―「韓国併合」一〇〇年をめぐる日韓の運動から | 加藤圭木 | |
コラム:「歴史」を回す―オビシャ行事とオニッキをめぐる歴史実践 | 金子祥之 | |
《オーラル・ヒストリーとライティング・ヒストリー Oral History and Writing History》 | ||
戦争記憶をめぐる再帰的な歴史実践―オーラル・ヒストリーによる他者理解と自己理解 | 石井弓 | |
オーラル・ヒストリーの敗北宣言―想像の死者へ向けた手紙 | 金菱清 | |
コラム:「歴史」する聖地創出 | 川田牧人 | |
《ミュージアムとアーカイブズ Museums and Archives》 | ||
歴史資料の保全と地域貢献・歴史実践 | 西村慎太郎 | |
東京大空襲・戦災資料センターを拠点とした「東方社コレクション」をめぐる活動―共同研究の進展と成果の公開 | 小山亮 | |
コラム:民俗文化財に対する内部者の目線と外部者の目線 | 村上忠喜 | |
《デジタル・パブリック・ヒストリー Digital Public History》 | ||
歴史のデータは誰のものか―Digital Historyがもたらす未来とは | 後藤真 | |
「記憶の解凍」―資料の〝フロー〟化とコミュニケーションの創発による記憶の継承 | 渡邉英徳 | |
コラム:歴史を刻む音楽―ある祭り囃子の「成長」 | 塚原伸治 | |
《アートと歴史映写 Art and Historiophoty》 | ||
歴史・アーカイヴズ・アートの連環―青森EARTH〈2012 超群島〉/〈2013 すばらしい新世界―再魔術化するユートピア〉 | 飯田高誉 | |
映像という歴史叙述 | 青原さとし | |
コラム:映像で文化を切り取る歴史実践の可能性―姫田忠義の映像製作 | 今井友樹 | |
パブリック・ヒストリアンへの道程―あとがきにかえて | 北條勝貴 | |
執筆者一覧 |
菅 豊・北條勝貴
編
『パブリック・ヒストリー入門 開かれた歴史学への挑戦』
勉誠出版, 512ページ
2019年10月