書籍紹介

羽田 正 編 『グローバルヒストリーと東アジア史』

編者からの紹介

 

 東京大学東洋文化研究所は、2011年から2013年にかけて、復旦大学文史研究院、プリンストン大学東アジア研究学部と共同で、世界史/グローバルヒストリーに関して3回のシンポジウムを開催しました。本書は、この3回のシンポジウムでの報告の中から、各大学5本、合計15本の論文を選んで編まれた論文集です。全体は、新しい世界史/グローバルヒストリーの方法論を扱う第一部と具体的なトピックに関する研究を収めた第二部からなっています。15本の論文は、それぞれが独自のテーマと視点を持っていますが、全体として、日本、中国、アメリカの研究者たちが、今後世界史の枠組みをどのように構築しなおすのか、新しい世界史という旗の下で具体的なトピックをどのように設定し議論するのかという問題に、真剣、かつ熱心に取り組んでいることが見て取れるでしょう。
 ただし、この三国の研究者が頭に思い浮かべる「世界史」や「グローバルヒストリー」という概念や枠組みは、必ずしも同じではありません。各国語での研究史や歴史学者の置かれた状況が異なるのですから、それは当然です。この論文集の意義は、このギャップの存在を明示しているという点にもあります。グローバル化が進む現代において、各国の歴史研究者が相互の認識の相違を知った上で、それをどう乗り越えて、共通の議論の場を創ってゆくのかが問われています。
 新しい世界史/グローバルヒストリー研究は、いま世界の歴史研究者の間でもっとも注目され、次々と新しい研究が公表されているホットな領域です。本書を通読して、その熱気の一端を感じ取って頂ければ幸いです。

目次

序 新しい世界史/グローバルヒストリーとは何か(羽田 正)
第1部 新しい世界史/グローバルヒストリーの方法
1 新しい世界史と地域史(羽田 正)
2 グローバルヒストリーの潮流の中で各国史にまだ意義はあるのか(葛兆光)
3 地域史とグローバルヒストリーの一体的なアプローチによる東アジア近世史の再考(ベンジャミン・エルマン)
4 「東亜」から東アジア海域へ――歴史世界の構築とその功罪(董少新)
5 東アジア近代哲学における条件付けられた普遍性と世界史(中島隆博)
6 思想の世界史は可能か(フェデリコ・マルコン)
7 中国におけるグローバルヒストリーの伝承と革新――復旦大学歴史学部世界史学科の歩みを例に(顧雲深)
第2部 新しい世界史/グローバルヒストリーの試み
8 陀羅尼は海を越えて――スリランカの経典伝播と東アジアの仏教文化(馬場紀寿)
9 「旧風を改める者一人としてなし」――唐の世界史観(ティネケ・ディヘーズレー)
10 明朝の薛瑄従祀に対する朝鮮王朝の反応(王鑫磊)
11 開かれた世界という物語――オランダの悲劇,中国の噂,そして世界的なニュースとしての明朝の滅亡(パイズ・キュルマン)
12 東アジア地域を視野に入れた中国地域社会の研究(王振忠)
13 一六,一七世紀 世界の文学(大木 康)
14 日本的倹約のトランスナショナルな歴史(シェルドン・ギャロン)
15 大学の「内なる国際化」――東京大学にみる国際化の140年(佐藤 仁)
索引/執筆者一覧

関連情報

羽田 正
『グローバルヒストリーと東アジア史』 東洋文化研究所叢刊 30,   328頁
2016年03月 ISBN: 978-4-13-020303-6

東洋文化研究所叢刊

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