 
国際保健事業というと、紛争の処理や軍縮、外交などの「政治的」な舞台とは別次元で展開される、「非政治的」な事業というイメージを持たれる方が多いと思います。しかし、国際保健事業の展開を歴史的に辿ってみると、実際にはこの事業が「政治的」な舞台で展開されてきたこと、その経験から、国際社会の平和と安定を維持するための重要な役割を期待されてきたことが分かります。第一次世界大戦の後、国際連盟の下で、国際保健事業が本格的に始まりました。当初はその名の通り、「非政治的」な協力事業にすぎませんでしたが、世界大恐慌や日中対立、二度目の世界大戦を経験していくなかで、次第に国際保健事業に新たな役割が期待されるようになります。そして第二次世界大戦の後、世界保健機関(WHO)とユニセフが設立される際、その役割は明確に制度として組み込まれることとなりました。
本書は国際連盟保健機関の経験の上に、WHOとユニセフが設立されるプロセスを歴史的に明らかにしつつ、国際保健事業が国際社会における役割をどのように変容させてきたのか、また、それはなぜかを明らかにしたものです。利己的な国家によって構成される国際社会において、国際保健協力はどのようにして進展してきたか?国際保健協力の進展は国際社会にどのような影響をもたらすのか?今後の国際保健協力にはどのようなことが期待されるか?国際政治学という学問領域を越えて、本書がこのような疑問を紐解く一助となれば幸いです。
| はじめに | |
|---|---|
| 序 章 国際政治研究からみた国際保健事業 | |
| Ⅰ 「ポジティブ・ヘルス」の出現 | |
| 1章 | 国際保健協力の歴史的系譜 | 
| 2章 | 東アジアでの事業展開と国際関係——1925〜38年 | 
| 3章 | 伝染病の撲滅から「ポジティブ・ヘルス」へ——栄養問題への多角的な取り組み 1929〜43年 | 
| Ⅱ 「ポジティブ・ヘルス」の実現に向けて | |
| 4章 | テクノクラートたちの戦後構想——1943年 | 
| 5章 | 国際連盟保健機関から世界保健機関へ——1943〜45年 | 
| Ⅲ 「ポジティブ・ヘルス」の行方 | |
| 6章 | 世界保健機関の設立と初期の活動——1945〜46年 | 
| 7章 | 戦後初期東アジアにおける国際保健事業——1946〜53年 | 
| 終章 | 国際政治のなかの国際保健事業 | 
| 注 | |
| 史料・参考文献 | |
| おわりに | |
| 関連年表 | |
| Summary | |
| 人名・事項索引 | |
 
安田佳代
著 
『国際政治のなかの国際保健事業――国際連盟保健機関から世界保健機関、ユニセフへ』 
ミネルヴァ書房,   320ページ 
2014年4月
 
(略歴は東洋文化研究所に在籍期間中のものです。現在の CV は関西外国語大学のホームページなどからをご覧ください)
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