2011年1月にチュニジアのベン・アリー、エジプトのムバーラクが民衆の抗議デモの嵐に見舞われ、次々に大統領宮殿を去ってから一年が過ぎました。しかし、アラブの革命はこれらの国ばかりか、周囲の国々に波及して、現在も進行中であり、その行く末はまだなかなか見えません。
今回の新しいアラブの革命については、開始された当初から、さまざまな議論が示されました。ただし、何か突発的に起きた出来事として、また単純で分かりやすい要因による説明だけで納得してしまった方も多かったのではないでしょうか。
本書『エジプト革命 アラブ世界変動の行方』(平凡社新書)は、エジプトを事例にして、今回のアラブ革命の歴史的な背景について解説しようと試みたものです。
第1章「革命の系譜」では、今回のエジプト革命が長い間に蓄積された人々の運動の成果であることを説明し、第2章「革命の背景」では、若者たちが運動に決起した背景にあるこれまでの政治経済体制の矛盾を「腐敗」と「抑圧」をキーワードにして解説。第3章「革命の行方」では1952年のナセルの革命と比較しながら、革命の展開過程を分析し、パレスチナ問題など地域への影響についても論じました。
本書は、東京大学東洋文化研究所紀要別冊として3月に刊行予定の拙著『アラブ革命の遺産―ユダヤ系エジプト人の思想的選択』(平凡社)の理解を助けるために執筆されたものであり、この本についても合わせてお読みいただければ幸いです。
はじめに | |
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第一章 革命の系譜 | |
1 | 結束する声、言葉の力 |
2 | 革命か、騒乱か |
3 | 起点としての一九六八年 |
4 | 冬の時代から革命の春へ |
第二章 革命の背景 | |
1 | 体制は打倒されたのか |
2 | 革命への期待 |
3 | 抑圧と腐敗 |
4 | 腐敗のピラミッド |
5 | 腐敗の歴史、抑圧の起源 |
第三章 革命の行方 | |
1 | ナセルの七月革命の再検討 |
2 | 軍は革命を管理する |
3 | ムスリム同胞団の迷い |
4 | 憲法改正の動き |
4 | エジプト革命とパレスチナ問題 |
あとがき |
長沢 栄治 著
『エジプト革命 --アラブ世界変動の行方--』
平凡社 (平凡社新書 622), 264ページ
2012年1月