取り組んでいるテーマ
現在、取り組んでいるのは、二人のエジプト・ユダヤ教徒マルクス主義者の個人史を当時の歴史過程の中に位置づける研究であり、『エジプト・ユダヤ教徒マルクス主義者の思想と行動』(仮題)という本にまとめようと考えている。研究の構想は以下のとおりである。
ヘンリ・クリエル(1914-1978年)とアハマド・サーディク・サアド(1919-88年)は、ともにカイロのユダヤ教徒の家庭に生まれ、ファシズム勢力が台頭する時代環境の中でマルクス主義に出会い、やがて運動の主導権を争う二つの組織の指導者となった。しかし、その後の二人が進む道は、パレスチナ戦争(ナクバ1948年)やエジプト7月革命(1952年)がもたらすナショナリズムの激流の中で、大きく分岐していった。クリエルは、エジプト政府から国外追放措置を受け、さらに自らが育て上げた主流派組織からも絶縁された後は、パリに拠点を移しアルジェリア独立闘争をはじめとして第三世界の解放運動を支援する活動を続けたが、暗殺によって人生の幕を閉じる。一方のサアドは、高揚するアラブ・ナショナリズムの潮流に中に身を投じ、イスラームに改宗してエジプトの地に留まり、長い投獄生活を経た後、晩年に多くの著作を残し、研究者としての大輪の花を咲かせた。二人が相異なる道を歩んだ背景には、数々の偶然の積み重ねが生んだ境遇の違い、政治活動家あるいは思想家としての本来的な資質の相違もあったであろうが、パレスチナ問題との関わりが決定的に大きな影響を与えた。本報告の目的は、近年数多く出版されている証言集・回顧録を参照しつつ、激しいナショナリズムの時代を生きた二人の個人史について、とくにパレスチナ問題への対応を中心に考察することである。
チュニジアのナツメヤシ農園