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2017年度 第5回 定例研究会「上座仏教における僧院とはなにか:人類学的仏教研究の可能性」(藏本龍介 准教授)が開催されました

報告

 2017年4月に汎アジア研究部門に着任した藏本龍介准教授は、現代ミャンマー(ビルマ)を事例として、上座仏教の出家生活に関する研究を行ってきた。本報告では、人類学的な仏教研究の展開を振り返りつつ、「出家者の生態学」「仏教の人類学」という研究関心が示されるとともに、その視点から仏教学との対話可能性が検討された。
 藏本准教授によれば、人類学的な仏教研究は、先行する近代仏教学の成果を踏まえると同時に、それと差異化する形で始まった。教義ではなく、実践を研究する。いいかえれば、仏教徒の生き方を研究する。そして手法として文献学ではなくフィールドワークを行う。これが人類学的な仏教研究の重要な特徴の一つである。それゆえに主要な研究対象となってきたのは、社会生活を営む在家者(一般信徒)の実践である。また分析手法としては、社会的コンテクスト(地域の固有性や社会変動など)が重視され、その傾向は近年、ますます強くなっている。こうした研究は、地域・時代に応じた多様で豊穣な仏教世界を明らかにしてきた。その一方で、地域・時代を超えた仏教なるものの特性を解明しようという志向性は弱い。その結果、仏教学と人類学は、同じ仏教を研究していながらも、相互に参照することが少ないという不幸な状況をもたらしている。
 こうした状況を乗り越えることを目指して、本報告では現代ミャンマーの僧院組織が分析された。具体的には、「僧院」なるものを、�モノ(土地、建物、その他)、�出家者集団、�僧院組織という要素の総体として捉えることが提示され、各要素の特徴が分析された。その上で、今後の研究では、各要素がどのようにつくられているか、それがどのように絡み合い、その結果、どのような制度が形成され、そして変容しているか、という実態を民族誌的に記述すること、さらにその成果を現代ミャンマーというコンテクストに解消してしまうのではなく、地域・時代を超えた仏教僧院の一事例として位置づけることによって、より広い比較の土台に載せることを目指すとされた。
 報告後、コメンテーターの馬場紀寿准教授から、仏教学の立場から律蔵の形成過程や、サンガとヴィハーラの関係などについての解説がなされたほか、ミャンマーとスリランカの違い、現場における律調査の可能性、人類学における「仏教の人類学」という立場の位置づけなどについての質問がなされた。さらに会場からも、都市と村落の区別をめぐる認識、生態学というアナロジーの問題、「キリスト教の人類学」という研究動向との関連、「サンガ」概念の一般性など、多くの質問があがった。参加者は40名を超え、活発な議論が交わされた。

当日の様子

開催情報

日 時: 2017年12月14日(木)14:00-16:00

会 場: 東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室

題 目: 上座仏教における僧院とはなにか:人類学的仏教研究の可能性

発表者: 藏本 龍介(東洋文化研究所・准教授)

司 会: 名和 克郎(東洋文化研究所・教授)

コメンテーター: 馬場 紀寿(東洋文化研究所・准教授)

使用言語:日本語

概 要:
 人類学的な仏教研究は、先行する近代仏教学の成果を踏まえると同時に、それと差異化する形で始まった。教義ではなく、実践を研究する。いいかえれば、仏教徒の生き方を研究する。そして手法として文献学ではなくフィールドワークを行う。これが人類学的な仏教研究の重要な特徴の一つである。
 それゆえに主要な研究対象となってきたのは、社会生活を営む在家者(一般信徒)の実践である。また分析手法としては、社会的コンテクスト(地域の固有性や社会変動など)が重視され、その傾向は近年、ますます強くなっている。こうした研究は、地域・時代に応じた多様で豊穣な仏教世界を明らかにしてきた。その一方で、地域・時代を超えた仏教なるものの特性を解明しようという志向性は弱い。その結果、仏教学と人類学は、同じ仏教を研究していながらも、相互に参照することが少ないという不幸な状況をもたらしている。
 こうした状況を乗り越えるために本発表では、現代ミャンマーの僧院組織を分析する。そしてこの事例を現代ミャンマーというコンテクストに解消してしまうのではなく、地域・時代を超えた仏教僧院の一事例として位置づける。それよって、人類学的な仏教研究の可能性、仏教学との協働可能性を模索することが本発表の目的である。

担当:蔵本



登録種別:研究活動記録
登録日時:Wed Dec 20 11:09:57 2017
登録者 :蔵本・山下・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20171214 - 20180314
当日期間:20171214 - 20171214