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教員の監訳書が刊行されました
テイラー・フレイヴェル 著/松田康博 監訳『中国の領土紛争―武力行使と妥協の論理―』(勁草書房)

監訳者による紹介

 本書は、M. Taylor Fravel, Strong Borders, Secure Nation: Cooperation and Conflict in China’s Territorial Disputes, Princeton and Oxford: Princeton University Press, 2008, の全訳である。また日本語版を出版するに当たって、著者に2008年以降の尖閣諸島をめぐる日中対立についての章を追加執筆している。
 著者は、領土や主権に関わる問題で、交渉を通じて小国に対してさえ妥協したケースがあること、他方でいかに相手国が強大であっても武力行使に踏み切ったケースがあることを明らかにした上で、どのような条件で中国が領土に関して妥協したり、武力を行使したりしたのかを明らかにしている。
 1949年から2005年までの間、中国は、領土・主権に関わる紛争を23件抱えてきたが、著者はそれらをチベット、新疆など「辺境部をめぐる紛争」、台湾、香港など「国家統一をめぐる紛争」、スプラトリー諸島や尖閣諸島など「島嶼部における紛争」に分けて議論する。中国は、通常「引き延ばし」戦略をとっているが、ある条件が整うと「妥協」または「エスカレーション」の戦略を選択するという。 その条件とは何か。著者は、係争地域の価値、支配力(クレイム・ストレングス)、内外の安全保障環境の変化により、自らが不利な立場に追い込まれたと判断すれば、大国に対してでもエスカレーションを選択することがある一方で、飢餓の発生やチベット暴動など、国内の体制不安が起きた時には、小国に対しても交渉し、妥協をすることがあると主張する。武力行使を選んだのは23件のうち6件であり、中国が主権・領土問題で常に強硬的であるという印象は事実に反する。
 従来の研究では、武力行使したケースを対象に中国の対外行動を分析したものが多い。ところが、中国の対外行動には、衝突と協力の両方、つまり武力を使ったときと使わなかったときの両方がある。中国が武力を使わなかったケース、特に交渉をして妥協したケースを検証しなければ、領土や主権に関わる中国の対外行動全体を明らかにしたことにはならない。本書の貢献は、衝突と協力の両方のケースを包括的に研究し、理論化したことである。
 では、中国が日本との間に抱える「尖閣諸島問題」のケースはどうであろうか。著者の理論枠組みによると、全く楽観視できない未来が待っている。中国はこの問題で妥協するインセンティブをほとんど持たない。島嶼の価値は高く、中国は、普段「引き延ばし」戦略をとっているが、自分が不利になったと「主観的に認識」した際に、日本相手に「エスカレーション」戦略をとるのである。本書の描く中国の行動原理は、冷徹かつ合理的である。

 なお、本書の翻訳プロジェクトは、東洋文化研究所班研究「東アジアの安全保障研究」(http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/project/group/group.php?id=P-7)の成果の一部である。


目次等、詳細情報は教員の著作コーナーに掲載した記事をご覧ください。



登録種別:研究活動記録
登録日時:Thu Aug 8 14:04:34 2019
登録者 :松田・田川・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20190808 - 20191108
当日期間:20190808 - 20190808