本書『地域が動く経営戦略: 公益経営のすすめ』は、株式会社CNCの活動を手がかりに、日本各地で静かに広がる新しい経営潮流を描き出すものです。CNCの始まりは、設立者の矢田明子さんが抱いた「なぜ人は日常のなかで、健康を高めたり、気づき合ったりできないのだろう」という素朴な問いでした。この疑問をもとに島根で生まれた取り組みは「コミュニティナース」と呼ばれ、いまや全国へ、さらには海外へと広がり、地域社会や企業経営のあり方に変化をもたらしています。本書では、その広がりを「公益経営」という新しい概念で捉えています。
私は第2章で矢田さんのインタビューをまとめ、第4章では文化人類学者の立場からCNCの営みを「静かな革命」として分析しました。コミュニティナースは単に医療や福祉を補完するものではなく、人々の偶発的な出会いや相互作用から思いがけない価値を立ち上げる営みです。制度化されない小さな実践が、いかに地域の関係性を組み替え、経営や公共性の新しい形を生み出しているのかを明らかにしています。
「公益経営」とは、利益追求にとどまらない経営の新たな可能性を照らし出す試みであり、社会の変容を読み解く重要な事例でもあります。本書は研究者にも実務者にも、経営と公共性を再考するための知的刺激を与えてくれるはずです。読み終えたとき、あなた自身の身近な営みの中にも、この「静かな革命」の芽を見つけられるかもしれません。
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