本書は、イスラーム考古学者としてガラス研究にその生涯を捧げた真道洋子氏の遺作です。長年中近東文化センターに勤務し、故川床睦夫氏の指揮の下、カイロのフスタート遺跡、シナイ半島のラーヤ遺跡およびトゥール遺跡を発掘し、エジプトのイスラーム時代のガラスの変遷をつぶさに研究してきた成果を披露するとともに、イスラーム地域のガラスに映し出された当時の人々の生活を生き生きと紹介しています。
今では私たちの日常生活の中に何の不思議もなく存在しているガラスですが、そもそも原料ガラスを作ることから人の手が入る、真に人工的な工芸品です。古代オリエント世界で製造が始まり、ガラスという特殊な素材に適した用途が見出され、それに応じてさまざまな器形が生み出されただけでなく、透明度の追求、色彩の付加、カット装飾や器具装飾など三次元装飾などにより器が美しく洗練されていった、イスラーム地域の長いガラスの歴史を本書は振り返ります。
2018年に急逝された真道氏の遺志を継ぎ、1年以上の時間をかけて彼女が遺した初稿を丁寧に監修・校閲し、図版と地図を加えて、この度刊行の運びとなりました。学術書ではありますが、貴重な出土品と美しい館蔵品の写真を豊富に掲載し、見るだけでも「イスラーム・ガラス」を実感できる本となっています。
目次等、詳細情報は教員の著作コーナーに掲載した記事をご覧ください。