本書はこの数十年間の東南アジア史研究を牽引してきたアンソニー・リードが、東南アジア地域全体の歴史を先史時代から現代まで描き上げた作品であり、現時点でのリードの最新作、かつもっとも包括的な本である。各章は国家や時代にもとづくのではなくテーマごとに立てられており、取り上げる時期は重複し、議論は地域を横断する挑戦的な作品である。
「この地域の10ヵ国の国民国家史については、日本語でも他の言語でも多くの優れた作品があり、いくつかはそうしたネーションの物語を統合しようと努めている。それでも私は、本書が国民国家や時代よりもテーマを強調したことにより、日本の読者が何らかの新しい知見を得る一助となることを願っている。本書は個別の国家や王家の物語の役割を控えめに描き、一般の人びとにもっとも影響を与えた、地殻変動的な深く広い変化に対してより大きな注意を向けている。そうした人びとは、政治的指導者が主張するほど国境によって分断されてはいないのである」(「日本語版への序」)。
本書は教科書としても使えるように作られている。わたしたち訳者はそれを意識して、現在から将来にかけて、日本の文脈に埋め込まれながら東南アジアの歴史を学ぶ学生や一般の読者に理解してもらえるような訳文をめざした。同時に、本書をつらぬく独自のキーワードや、新たな、または既存のものを読み替えた概念が正確に伝わるよう、原資料にあたることはもちろん、リード自身と常に連絡をとり、批評的な視点を忘れないようにしながら最善を尽くしたつもりである。ぜひ本書を多くのかたに手にとっていただけたらと願っている。(青山和佳)
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