外部資金による研究
文部科学省・日本学術振興会科学研究費による研究調査
当研究所の教員が研究代表者を務める文部科学省・日本学術振興会科学研究費研究課題の一覧です。
- 中島 隆博
- 基盤研究 (B)
- 「一般リズム学」を地平とする統合的思想史の構築 (2022~2025年度)
- 研究分担者
- 沖本 幸子, 田中 純, 竹峰 義和, 朝倉 友海, 乗松 亨平, 長木 誠司, 中井 悠, 加治屋 健司, 森元 庸介, カペル マチュー, 桑田 光平, 星野 太
- 研究の目的
- リズムの概念を音楽学、あるいはダンスを中心とするパフォーマンス研究に限定することなく、語源となるギリシア語「リュトモス(rhythmos)」の多義性を意識しながら、バンヴェニストによる言語学的研究、メショニックによる文学的研究、マルディネによる哲学的研究などの理論的成果を踏まえ、時間と空間、言葉とイメージ、生物と無生物といった多領域にまたがる広汎な領域を貫く〈分節化の原理〉として再定義しつつ、欧米圏のみならず日本を含めた東アジア圏を視野に収め、1) 絵画、写真、映画などの造形・映像領域、ならびに文学を含めた一般芸術学の構築、2) とりわけ習慣や秩序をインターフェイスとした個と共同体の相互作用的な編成メカニズムの解明を主たる柱としつつ、思想史・文化史の刷新に寄与しうる視座の獲得を目的とする。
- 桝屋 友子
- 基盤研究 (B)
- 大原美術館フーケ・コレクション調査に基づくイスラーム期のエジプト陶器通史の構築 (2022~2025年度)
- 研究分担者
- 菊池 百里子, 神田 惟
- 研究の目的
- エジプトはイスラーム時代の陶器生産の重要な中心地であり、上質の彩画をもつラスター彩陶器の生産やイスラーム陶器に大変革をもたらしたフリット胎土の発明などで知られる。現在に至るまでエジプト陶器史の研究は専ら現カイロ市南部のフスタート地域から出土した陶片の研究に依拠しており、多くが小片であるが故に彩画や銘文の分析など美術史学的研究には限りがあった。ところが岡山県倉敷市の大原美術館の所蔵するフーケ・コレクションは、19世紀末にフランス人医師フーケがフスタートで採集した陶片約400点を含み、ごく初期の採集であるため、大型陶片が多く、状態も良好であり、美術史資料としての研究が可能である。これらの陶片を地域、時代、技法、モチーフに基づいて詳しく分類・分析・考察することによって、これまでなされてこなかったエジプトにおけるイスラーム陶器通史の構築を美術史の立場から提示し、国際的な学術貢献を果たす。
- 藏本 龍介
- 基盤研究(B)
- 聖典宗教の人類学:教義のエージェンシーに注目して (2022~2025年度)
- 研究分担者
- 高野 さやか, 岡部 真由美, 中尾 世治, 石森 大知, 門田 岳久, 金子 亜美
- 研究の目的
- 本研究では、「(聖典)宗教」を「社会」の想像/創造を可能にする「教義」、「社会」を「教義」の探究を通じて結びついたヒト・モノのネットワークと定義する。こうした方法論的視点から本研究では、仏教、キリスト教、イスラム教および「聖典化」した民間伝承を事例として、「宗教」と「社会」の相互構成的プロセスを、現地調査を通じて民族誌的・歴史的に明らかにする。同時に、その成果を相互に比較検討することによって、「聖典」をもつということがこのプロセスをどのように特徴づけているかという問題について、より一般的な答えを提示する。こうした作業を通じて、仏教・キリスト教・イスラム教に関する学術的研究だけでなく、人類学・宗教学一般に対する理論的貢献を目指す。
- 森本 一夫
- 基盤研究(B)
- 「スンナ派」と「シーア派」:自己意識と相互認識のイスラーム史研究にむけて(2023~2026年度)
- 研究分担者
- 新井和広, 河原弥生, 二宮文子, 森山央朗
- 研究の目的
- 本研究は、イスラーム史上のさまざまな場に現れ「スンナ派」「シーア派」と名乗った/他から呼ばれたさまざまな集団や個人のより適切な理解、同じくしばしば見られる「両宗派混淆」とされる状況のより正確な解釈を目指し、さまざまな時代や地域に生きた人々の「スンナ派」あるいは「シーア派」としての自己意識と相互認識を研究する。これは、「スンナ派」「シーア派」という呼び名が惹起する画一的な性格づけ(教義や実践に関する「教科書的な知識」による)の弊害を逃れ、重要な変化の時代に現れることが多かったそのような集団・個人・状況をより良く理解しようとする試みである。
- 佐橋 亮
- 基盤研究(B)
- 東アジア国際秩序の歴史的形成過程:非西洋国際関係論と地域研究の接合(2024~2026年度)
- 研究分担者
- 向山 直佑, 高橋 慶吉, 青野 利彦, 佐竹 知彦, タンシンマンコン パッタジット, ロート アントワン, クーン フェリックス
- 研究の目的
- 本研究の目的は、東アジアにおける国際秩序の歴史的形成過程を、近代以前までを分析対象に含め、従来よりも長いタイムスパンを取って分析することで明らかにし、そこから今後の地域秩序に関する示唆を見出すことである。 戦後の東アジアにおいて支配的地位を確立してきた米国が中国およびアジア各国の成長によって相対化される可能性が高い将来において、秩序がどのように変容するのかという問題は、国際政治研究者のみならず、政策担当者や一般市民の関心も高いトピックであるが、これに対して米国の影響力が低かった過去の秩序を参照点にすることで、重要なヒントを与えることができる。
- 真鍋 祐子
- 基盤研究(B)
- 東アジア地域秩序における構造的暴力と社会運動の生成に関する歴史社会学的研究
- 研究分担者
- 金子 毅 , 徐 淑子 , 井沢 泰樹
- 研究の目的
- 本研究の最終的な問題意識は、韓国やカンボジアにおける当事者主体の社会運動との比較を通して、日本の社会運動から「敵対性」を希薄化させ、社会変革を阻害する日本社会の構造的要因が何であるか、それは東アジア地域秩序という変数によっていかに構築されたのか、だが冷戦後日本のマジョリティにも実は透明化された「敵対性」が見出せるのではないか、という点にある。 これらの問いを解明する作業を通し、本研究は国民国家を暗黙の単位とした従来の社会運動研究に対し、東アジア地域秩序の末端にいる構造的暴力の当事者が社会運動を志向する「意味の再構築」を問うことで、大胆なパラダイム変換による社会運動研究の方法論の再構築をめざす。
- 板倉 聖哲
- 基盤研究(B)
- 中国絵画コレクションの移動と現在
- 研究分担者
- 塚本 麿充, 井手 誠之輔, 森橋 なつみ, 植松 瑞希, 呉 孟晋
- 研究の目的
- 本研究では、世界中に分蔵される中国絵画の所在情報を収集・把握し、調査・撮影を行い、斯学における新たなプラットフォームとして公開する。さらに、過去の伝来情報も改めて調査することで、どのような形で流通・伝播したかを可視化する。 中国絵画は中国のみならず韓国・日本など東アジア絵画のカノンとされるが、現在に至るまでの伝来情報が公開されることで、東アジアにおける絵画の再構築が見えてくる。
- 柳 幹康
- 基盤研究(C)
- 『宗鏡録』の一心思想の研究 (2021~2025年度)
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は東アジア仏教全体を展望する巨視的な視座の確立を目指し、『宗鏡録』が中国仏教独自の禅の立場からインド由来の仏教思想をいかに捉えなおしたのかを文献学的に解明する。
『宗鏡録』は禅宗所伝の一心(本来仏である己の心)を明かすために仏典から要文を網羅的に蒐集し、100巻にまとめた書物である。そこでは禅の立場から従来の教・律・浄土など仏教の諸要素が一心看取のための手段として読み替えられている。『宗鏡録』は従来の多元的な仏教を禅の一心を核に一元的に再編するものであり、その後中国のみならず朝鮮・日本を含む東アジア一帯の仏教に多大な影響を及ぼした。
本研究では『宗鏡録』と関連文献を比較分析することで、一心に関する諸説が従来の仏教においてどう形成され、それを『宗鏡録』がいかに摂取したのか、ならびに『宗鏡録』が一心に基づき従来の仏教を具体的にどう再解釈したのかを明らかにする。
- 塚本 麿充
- 基盤研究 (C)
- 日本・アジア美術史のオーラルヒストリー・アーカイヴの構築と公開 (2022~2025年度)
- 研究分担者
- 板倉 聖哲, 高岸 輝, 増記 隆介
- 研究の目的
- 本研究は日本・東洋美術史学のオーラル・アーカイヴの構築、および公開を目指す。日本の1930-40年代生まれの美術史家、修理関係者および美術関係者を中心に、各地の協力者に依頼し、共同して聞き取り調査(グループ・インタビュー)を行い、報告書およびweb上で公開する。同時に海外(アメリカ、ヨーロッパ、中国、台湾、韓国)の関係者にも調査を行う。従来までは残らなかった作品に関する総合的な情報を後世に伝えるまた本調査終了後も、引き続き1950年代以降について、継続的調査・公開をすすめていく。 また従来まで蓄積されてきた近代の美術史学研究に非常に欠落している部分として、特に戦後に盛んになったアメリカ・ヨーロッパ・中国・韓国・台湾をふくむグローバルな美術史学の交流、および展開のなかでの位置付け行うことにより、日本、東アジア地域、欧米各地における美術史学研究の成立および相互理解の具体的な過程を明らかにする。
- 小川 道大
- 基盤研究 (C)
- 植民地化によるインド西部の農村社会の変容:前植民地期からの連続的考察 (2022~2025年度)
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は植民地化によるインド農村の社会経済的な変容を、植民地下の新地税制度に注目し、前植民地期に遡って考察する。そのために本研究は前植民地期の史料が多く残るインド西部を対象とし、前植民地期と植民地の税関係の史料を比較・結合することで、植民地化による変化を連続的に考察する。具体的には、①前植民地期の郡および村落の税記録、②前植民地期の通関税および交易記録、③植民地期の当該記録を用いてこれらの史資料群の比較・結合を行う。
- 名和 克郎
- 基盤研究 (C)
- ネパール、ドラカ郡における震災後の居住実践の中期的変遷に関する映像人類学的研究 (2023~2025年度)
- 研究分担者
- KHAREL DIPESH
- 研究の目的
- 本研究は、ネパール、ドラカ郡アランプ村の事例を通して、耐震性の観点から建物 の設計や工法に多くの規制がかかった2015年大震災後のネパールにおいて、人々が、耐震 性は高いがより狭く、機能的にも美的にも問題が指摘されることの多い耐震住宅を、いか に受け入れ、 そこでいかなる居住実践を行ってきたかを、震災以前からの居住環境の中期 的変遷を踏まえて明らかにする研究である。技法的には、通常の民族誌的フィールドワー クに加えて映像人類学的手法を用いる。震災後ネパールに関する既存の人類学的・民族誌 的研究に対する独自の貢献に加え、T.インゴルドの「建てる」と「棲まう」の概念を暫定 的に用いて現状の複雑さを理論的に示すこと、また、より実践に近い課題として、耐震住 宅を人々が受け入れていく条件の一例を提示することもまた、目指されている。
- 渡邉 祥子
- 基盤研究 (C)
- イスラーム教育の社会的機能に関する国際共同研究:後期植民地期アルジェリアの事例 (2024~2027年度)
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- パットナムやブルデューらによって提唱された社会関係資本(文化資本)論におい ては近年、ジェンダーやエスニシティによる資本の種類の相 違について様々な指摘がなさ れてきた。例えば、支配的な文化資本とコミュニティ・ベースの文化資本とを区別する議 論や、移民の出身文化と 移民先の支配文化との関係論が、先進国の事例を基に展開されて きた。また、ジェンダーによる社会関係資本の質の差異については、男性より も女性の方 がインフォーマルな社会的なネットワークとケア領域における活動に依拠しやすい点も指 摘されている。本研究は、植民地期アルジ ェリアでアラビア語教育を行った私立学校 (自由マドラサ)の経済的基盤に関する実証的分析を進めるとともに、こうした社会学の 知見を取り 入れ、イスラーム地域におけるマドラサやコーラン学校の多様な社会的役割と レジリエンスに関するイスラーム地域研究・人類学研究の議論に 貢献することを目的とする。
- 佐藤 仁
- 基盤研究 (C)
- 世界から見た日本の開発学:その体系化と教材化 (2024~2026年度)
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、日本の開発経験を基盤に新たな体系を構築し、教科書としてまとめること を目的とする。貧困削減や気候変動への適応といった具 体的な課題は、その成果に注目が 集まるために、どのような「プロセス」から成果が導かれたのかという点が看過されがち である。応募者は、 地域に固有の開発概念を含む文化や価値観が、このプロセスを大きく 左右すると考える。つまり、同じ投入(技術や資金)であっても、成果ま での回路が地域の 文脈によって異なる可能性があり、この回路の選び方によって、格差や不平等、開発の副作用 など、プロセスに伴う新たな課 題を抑制できる見通しが立つのではないかと考えている。
- 辻 大和
- 基盤研究 (C)
- 近世朝鮮における薬用植物の利用・流通・消費
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は17~19世紀にかけての朝鮮における、薬用植物の利用・流通・消費の解明を目的とする。近世の東アジアでは薬用植物の生産と流通が拡大したが、その朝鮮での医療用以外の消費拡大の背景について、医食同源の日常生活における利用状況を探る。開始年度はデータベースや公刊史料を用いた国内での調査を中心とし、2年度目以降は1年に1,2回程度海外での未公刊史料調査を予定する。本研究は世界的に注目される植物資源の利用史について、朝鮮半島の事例を提示する。また、韓国の歴史ドラマや映画により朝鮮王朝に対する関心の高まっている日本社会に成果を提供し、日本における朝鮮王朝史理解を深める。
- 梅村 尚樹
- 基盤研究 (C)
- 文集史料から見た10~14世紀中国における士大夫社会の変遷
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 10世紀以降の中国は、士大夫層が政治・社会・文化の各方面で重要な役割を果たしたと言われるが、その具体的変遷がどのようなものであったのかは、いまだ十分明らかになっていない。とくに、宋代に形成された士大夫社会の様相が、元代になってモンゴルに統治されてもなお継続し、明代へと接続していった理由は、十分に明らかにされていない。 本研究は、朱子学の展開と浸透を軸としながら、主に士大夫個人が書いた文章である文集史料を利用して解明するものである。とくに「記」という一連の史料群を網羅的・統計的に分析することで、宋から明初に至る中国社会の変遷を、社会文化・思想文化の面から描くことを目的とする。
- 青山 和佳
- 基盤研究 (C)
- スローバイオレンスを可視化する回復の文学の創成:鉱害を生きるミンダナオの女性たち
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- フィリピン・ミンダナオ東部では、鉱山閉山後の住民生活が可視化されず、「スローバイオレンス」が進行している。被害は数値では捉えきれず、尊厳や感情、生き延びる試みが存在するため、人文学的アプローチが必要である。本研究は、カマンラガン村で閉山後も続く環境破壊の中を生きる女性たちの痛みを掬い、「回復の文学」を実践する。聞き書きワークショップを行い、「スローバイオレンス」を可視化し、国内外に発信する。
- 小寺 敦
- 基盤研究 (C)
- 先秦時代楚地域における世界観の形成と展開:清華簡による総合的文化理解の試み
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 新発見の出土文献である清華簡『五紀』『参不韋』により、先秦時代の思想を総合的・体系的に分析し、先秦時代の思想が有していたが、秦漢 時代以降に発展の芽が摘まれた、天・人の関係を始めとする総合的・体系的な思想様式=世界観の実態を歴史学的視点により解明する。そこで 得られた知見に基づき、先秦時代が有していた思想・文化の発展可能性を探求しつつ、中国古代の思想・文化理解に対する新たな側面からの貢 献を目指す。
- 秋葉 淳
- 基盤研究 (C)
- オスマン帝国における法廷とジェンダー
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、オスマン帝国の法廷文書をジェンダーの視点から読み解くことにより、オスマン帝国社会におけるジェンダー関係を再考する研究で ある。具体的には、18世紀オスマン帝国下のアナトリア地方の法廷台帳を利用し、訴訟、婚姻・離婚、暴力という3つのサブテーマに関して、 法廷台帳の批判的分析を通じて、地方社会におけるジェンダー関係と女性のエージェンシー(行為主体性)を探究する。すなわち、法廷におい てジェンダーをめぐる問題がどのように現れ、そこに女性の主体的意図や行動が読み取れるのか、という問題を考察し、オスマン帝国ジェンダ ー史・法社会史に独自の貢献をすることをめざす。
- 古井 龍介
- 基盤研究 (C)
- 中世初期北インドの新たな政治史:統合的歴史叙述への試み
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、中世初期北インドの政治史を、環境と歴史的過程の差異により、相異なる資源と統治システムを有するに至った諸地域勢力間の相互作用として、新たに叙述する。具体的には、中世初期の北インドに興った各地域勢力、特にパーラ朝と隣接諸勢力の交渉・抗争を、それらによる資源の経済的・軍事的利用・動員の態様や各地域の社会経済的構造変動と関連付けて叙述する。また、南アジア諸地域と内陸アジア・西アジア・東南アジアとの接続の在り方と、統治システムや資源動員へのその影響も、叙述の重要な要素として取り入れる。インド・バングラデシュ・欧州での現地調査による新出碑文史料の発見・校訂にも努め、それらを叙述に包含する。
- 田中 有紀
- 基盤研究 (C)
- 中国思想から考える新しい倫理と技術の関係:江永の礼学体系における技術と制度
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、清代の江永(1681-1762)の技術や制度に関する記述(天文暦法、数学、音韻学、地理学など)を分析し、それらを支える彼の経学(経書解釈の学問)も合わせて論理構造を明らかにした上で、朱子学との距離を分析しながら、彼の礼学の枠組みの中でどう位置づけられるかを検討する。代表者は以前、清代の思想家の天文暦法理論と江永のそれを比較し、中国においてどのように技術を問うのかを考察し、新たな技術哲学の枠組みを提示した。本研究では江永自身の思想を内在的に分析することに注力し、彼の技術論や制度論などの「道問学」が朱子学における「尊徳性」とどう関わるのか、その論理構造と礼学との関係を明らかにする。
- 菊池 百里子
- 基盤研究 (C)
- パラオにおける日本関連遺産の調査研究ーデータベースの構築と公開ー
- 研究分担者
- 菊池 誠一, 小西 潤子
- 研究の目的
- パラオへは1920~終戦までの間に多くの日本人が移住した。当時の日本がもたらした多様な日本関連遺産は、現在、崩壊、消失の危機にある。その全容把握のための調査、資料収集を実施し、現状や歴史的文化的真正性の評価をおこなうとともに、日本関連遺産コレクションをデータベースとして構築、公開する。
- キム ジユン
- 研究活動スタート支援
- 1980年代韓国における「Foreignness」(「外」)についての言説・表象研究
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、「Foreign」といった概念には「内」対「外」、「Us」対「Them」の構造に基づいて造られた境界感覚が反映されているとの考えから、「foreign(外)」が含む意味の多層性を究明する。本研究は1980年代韓国に焦点を当て、「ローカル」なりの外部との関係認識、境界づくりの過程を「foreignness」の具体的意味や詳細を分析し明らかにする。「外」の表現そのものが持つ複雑性と多面性に着目し、その意味構造を究明しながらそこに絡む社会文化や局面の特徴を解明することを目的とする。1980年代韓国はグローバル・モビリティやメディア環境など、「外」を媒介するあらゆる条件が大きく変遷した局面(conjuncture)として取り上げられるが、他の時期や社会の文脈についても比較的視座から考えることができる。
教員以外
- 鈴木 真吾
- 特別研究員奨励費
- 近代オスマン帝国における医療専門職の変容と国家―プロソポグラフィ及び社会史的分析
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、近代オスマン帝国における国家医療の地方普及過程において重要な役割を果たした市行政医に関する研究であり、主に以下の二点の 解明を目的としている。 第一にその出自や教育的背景に注目し、全体に占める文民医学校出身者の割合やその変化、出身階層や出身地といった社会的出自の特徴を明ら かにする。第二に医師の社会的地位の観点から、診療報酬、非正規医や偽医師との競合、そして職業利益団体の結成に着目し、医師たちが自ら の社会的地位の確立を模索した主体的取り組みを検討する。 これらを通じて、近代オスマン帝国における国家医療の展開や医学と社会の関係の変化、そして近代オスマン帝国の国家構造の特徴を解明する。
- 永島 育
- 特別研究員奨励費
- オスマン帝国の治安維持と民衆への暴力
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 多宗教・多民族帝国であったオスマン帝国は、19世紀から20世紀にかけて発生した叛乱や紛争の末に、陸軍による治安維持、さらには強制移住や虐殺など、民衆への暴力を伴いながら崩壊した。東欧・中東を支配したオスマン帝国が、暴力的に清算された過程を明らかにすることは、テロや紛争等の暴力という課題を抱える現代の東欧・中東を理解する上で、欠かせない問いである。 本研究は、治安維持のための軍事作戦時、民衆への暴力の主体となったオスマン陸軍将兵の体験、そして暴力体験の報道等における再定義を分析する。これにより本研究は、陸軍将校はなぜ過剰なまでの暴力でオスマン帝国の清算を実行したのかという点を明らかにする。
- 劉 玲芳
- 特別研究員奨励費
- 世界の中の近代東アジアの服飾文化――越境する文化の視点から
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- これまでの服装研究は、自国の文化を自国の視点で見る「単眼的」なものが中心であった。しかし、この方法では、近代東アジアにおける服飾文化の変化や活発な交流の動きを十分に捉えきれないという課題がある。本研究では、民俗学・歴史・美術・ファッションなど多様な分野の資料を用い、多言語・多視点から近代東アジアの服飾文化を総合的に分析する。とくに、国境を越えた文化の動きや、グローバルな視点を重視することで、東アジアと欧米を横断する新しい服飾文化研究を目指している。服装という切り口から、近代東アジアの文化と歴史の新たな姿を明らかにし、これまでにない服飾文化史を構築することを目的としている。
- 伊藤 涼
- 若手研究
- 「魏晋玄学」の思想構造の研究
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、中国魏晋期に流行した「玄学」が、老荘思想に基づく形而上学的理論を取り込むことで儒教思想を再構成しようとする試みであった ことを明らかにするものである。何晏・王弼・郭象・張湛の思想を個別に分析し、それらに共通する思想構造を明らかにすることで、「玄学」 を従来の解釈から脱却させ、儒教思想史の中に再定位することを目指す。
- 伊藤 涼
- 特別研究員奨励費
- 魏晋玄学の研究
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 本研究は、魏晋期に活躍した何晏・王弼・郭象の思想を分析し、「玄学」の思想史的展開を明らかにすることを目的とする。従来の研究では、「玄学」に西洋哲学的理論を重ねる解釈が多く、また儒教思想との関係性も十分に論じられてこなかった。本研究では、人間観・世界観・政治思想に注目しつつ、各思想家の理論とその変容を社会状況との関係の中で検討し、「玄学」が儒教思想のもとに形成・展開された過程を思想史的に解明する。
- ALBERY Henry
- 特別研究員奨励費 外国人特別研究員
- インド仏教におけるアヴァダーナ文献の研究
- 研究分担者
- なし
- 研究の目的
- 今日のインド仏教研究は、文献のみに基づく先行研究を批判し、同時代史料としての考古史料(仏像や碑文など)を最大限に生かして、文献と考古資料の両方を統合する研究が学界を刷新しつつある。このような状況に鑑み、本研究は、インド仏教におけるアヴァダーナ文献の研究を進めるために、アルベリー博士によるガンダーラ(現パキスタン)の遺跡発掘調査を進め、1世紀から5世紀におけるガンダーラ地域におけるアヴァダーナ文献の存在(あるいは不在)や様態を考古資料を通して検証している。本研究では、アルベリー博士と共同して、新たに発見された碑文をガンダーラの彫刻などとともに解読し、それを用いて、まったく新しい視点でアヴァダーナ文献の研究を進めることを目的としている。 共同研究者のアルベリー博士は現時点ですでに考古資料に関連する研究成果を発表しており、本奨励費によって今年度、さらに多くの発見が実現すると期待される。