松田 康博 著『中国と台湾ーー危機と均衡の政治学』(慶應義塾大学出版会)
著者からの紹介
本書は、21世紀の中台関係を歴史学、政治経済学、軍事学、国際関係論、シナリオ・プランニングなどの各種方法論を用いて中台関係を分析した地域研究の成果である。
本書の特徴は、研究対象として、主に2000年代以降の台湾の異なる政権と、中国における穏健な胡錦濤政権や積極的かつ強硬な習近平政権の相互作用を、個別の政権期の特徴を指摘するにとどまらず、それらを総体として分析している点にある。2000年以降台湾では政権交代が繰り返され、それにより中台関係は大きく変動した。
しかし、中台関係には台湾の政権のあり方に合わせたソフトな政策とハードな政策のサイクルがあり、中国の台頭や台湾人アイデンティティ増大というトレンドもある。しかも、米中関係の悪化という外部の構造変化の影響もある。したがって、中台関係を総合的に理解するためには、単に政権ごとの政策や関係の実証分析のみならず、より中長期的な視点から、サイクルやトレンドを把握することが重要になっている。
2000年代以降、中台関係は主に台湾の政権交代により振り子が振れるような変化を続けた。しかし、それも2024年に4つめの政権が出現することにより、政権交代をしつつも一定の枠内での変化が継続しているのではないかという見込みが大きくなった。中国は、民主化し、政権交代が起こる台湾に相対しており、その一方で台湾は、内部で政権争いをしながら中国と相対している。このダイナミクスをいかに理解するかが、本書を著す上での最大の課題である。
本書では、政治学的な分析のみならず、過去の歴史的経緯からくみ取ることができるインプリケーションを元に、シナリオ・プランニングの方法論(社会を変化させるドライビング・フォースが何かを認識し、最も重要かつ最も不確実な要因を2つ抽出することで4つの異なる未来像を描き、未来の軌道を意識することによって、現状をより明確に認識する方法論)を元に、中台関係の将来像を描き分けていることにも特徴がある。
多くの人は「戦争が起こるのかどうか」という結論だけを求める。しかし、前提もなしに戦争が起こるかどうかだけを議論しても意味がない。大切なのは「どのように地域を理解していくか」であり、「未来を作るのは自分たちである」という自覚である。本書をきっかけに、台湾海峡をめぐる議論がさらに豊かで有意義なものになることを期待している。
目次
序章 | 台湾海峡で戦争は起こるのか? |
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第一部 | 危機と均衡の歴史 |
第1章 | 台湾海峡問題の起源 |
第2章 | アイデンティティ政治と戦争回避――陳水扁政権と胡錦濤政権の闘争 |
第3章 | 経済的依存から政治的依存へ――馬英九政権と胡錦濤・習近平政権の協調 |
第4章 | 隠忍自重と過剰反応――蔡英文政権と習近平政権の冷たい平和 |
第5章 | 米中「新冷戦」の代理戦場――蔡英文政権と習近平政権の外交・軍事闘争 |
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第二部 | 台湾海峡の未来 |
第6章 | 武力統一と限定的武力行使――「信則無、不信則有」 |
第7章 | ハイブリッド戦における課題――非平和的手段の行使とその時間軸 |
第8章 | 中台関係の将来シナリオ――四つの未来 |
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終章 | 将来の展望――戦争は起こるか? 均衡は維持されるか? |
情報
松田 康博 著
『中国と台湾ーー危機と均衡の政治学』
慶應義塾大学出版会, 448 pages, 2025.7, ISBN: 978-4-7664-3037-0
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東洋文化研究所教員の著作