『東洋文化』第103号「特集:「ムハンマドの血筋」とムスリム―アリー一族をめぐる多様な語りと語り手たち」は、読んで字のごとく、「ムハンマド一族」としてムスリム諸社会で広く特別扱いを受けるアリー一族の人々が、さまざまな宗派、思想潮流、地域的・時代的な文脈に属すムスリムによってどのように論じられてきたか問う論文集です。10本の所収論文は、共通性と多様性をともに帯びたさまざまな言説の内容とともに、そうした言説の担い手たちの姿にも光をあてています。イスラーム教の「聖なる一族」を中心に据えたこの論文集は、「スンナ派」と「シーア派」というラベルが覆い隠す多様な信仰と実践のあり方の解明など、この論文集のアプローチならではの成果を通じ、イスラーム史研究・イスラーム研究に新たな風を吹かせてくれるでしょう。また、「血統」(あるいはより広く、「社会的に構築された生物学的な装いをもつ観念」)というようなキーワードを通じて、比較宗教的・比較文化的な考察にも道を拓くものとなってくれればと思っています。特集号は東京大学学術リポジトリーで全文公開されています。ぜひご覧になって下さい。
はじめに | 森本一夫 | |
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第一部 | サイイド/シャリーフの立場をめぐる語りと語り手たち | |
十二イマーム・シーア派イマーム論におけるアリー裔 ―アブドゥルアズィーム・ハサニーの事例を中心に― | 吉田京子 | |
現代イランの大衆向けサイイド論 ―バーゲリヤーン・モヴァッヘド著『サイイドの奇蹟』をめぐって― | 森本一夫 | |
ダウラターバーディー作『サイイドの美徳』に見える15 世紀北インドのサイイド論 | 二宮 文子 | |
現代インドネシアにおける預言者一族の位置づけ ―アブドゥッラー・ビン・ヌーフほかの論考から― | 新井 和広 | |
第二部 | イマーム崇敬と宗派性 | |
サファヴィー朝末期作成のイマーム・レザーの奇蹟譚集『天国への手段』をめぐって | 杉山 隆一 | |
スンナ派伝承主義者にとってのアリー崇敬―ニーシャープールのハーキム(1014 年没)が「シーア派的」と批判された理由と文脈― | 森山 央朗 | |
スンナ派の十二イマーム崇敬とマフディー | 水上 遼 | |
第三部 | 「ムハンマドの血筋」をめぐる多様な状況と戦略 | |
「聖」なる賽典赤とムスリム・アイデンティティ―清代中国の預言者一族の対外生存戦略と内的緊張関係― | 中西 竜也 | |
19 世紀フェルガナ盆地におけるミールザーたちの系譜書―コーカンド・ハーンの母方の系譜として― | 河原 弥生 | |
現代モロッコにおける女性王族の婚姻,血統および社会的地位 | 白谷 望 |
森本一夫 編集責任
『『東洋文化』第103号「特集:「ムハンマドの血筋」とムスリム―アリー一族をめぐる多様な語りと語り手たち」』
東京大学東洋文化研究所, 252ページ, 2023年3月, ISSN: 0564-0202