書籍紹介

川島真, 清水麗, 松田康博, 楊永明 著『日台関係史 1945-2020 増補版』(東京大学出版会)

著者による紹介

 

 本書は『日台関係史 1945-2008』(東京大学出版会、2009年)の増補版であり、戦後から直近までの日台関係を描いた唯一の通史である。
 本書のモチーフは、 実は台湾社会の二重性により、 「日台関係」と総称される日本と戦後台湾との関係もまた二重性を有する、ということである。それは日本とかつての「交戦国」であった中華民国との間の日華関係、日本とかつての植民地であった台湾社会との日台関係である。近隣諸国との外交関係が断絶した状態で日本の戦後外交は始まったが、占領期にも日台間で貿易協定が結ばれ、外交関係樹立も独立直後の1952年に日華平和条約によってなされた。
 その後、日華間で外交関係のあった約20年間は、日中間の接近と離反と裏腹の関係にあり、断交危機も発生した。1972年の日中国交正常化はすなわち日華断交であり、その前後から日本国内の自由民主党内の派閥抗争と日中・日華関係は連動するようになった。しかし蔣介石から蔣経国への世代交代と、自民党政権の総主流派化と、台湾の国際的孤立に台湾が適応したことなどにより、1980年代は日台関係は安定化した。
 ところが、1980年代末から90年代初頭にかけて発生した天安門事件、冷戦終結、ソ連崩壊などを背景に、台湾が民主化を進めたことにより、状況は大きく変わった。総統に就任した李登輝は、日本統治時代に教育を受けた世代であり、民主化とともに台湾化(本土化)を推し進め、その結果日華と日台の比重に変化が起きた。台湾ではそれまで抑圧されてきた日本との関係がポジティブに描かれるようになり、同時にそれに対する反発も出現した。日本では日中関係の段階的悪化を背景として、日本に友好的となった台湾との関係を段階的に改善させるようになった。この傾向は、独立派の陳水扁政権、独立反対の馬英九政権下でも継続し、特に2011年の東日本大震災を経てさらに強まった。このように、日台関係は、外交関係がないにもかかわらず、基本的に改善と発展のトレンドにある例外的な関係である。

目次

序 章 戦後日華・日台関係を概観する(川島 真・松田康博)
第I部 日華関係の展開と終焉
第一章 日華・日台二重関係の形成――1945-49年(川島 真)
第二章 日華関係正常化の進行――1950-57年(川島 真)
第三章 日華関係再構築への模索とその帰結――1958-71年(清水 麗)
第四章 日華断交と七二年体制の形成――1972-78年(清水 麗)
第II部 国際構造変動下の日台関係
第五章 日台関係の安定化と変化への胎動――1979-87年(松田康博)
第六章 台湾の民主化と新たな日台関係の模索――1988-94年(松田康博)
第七章 安全保障の二重の三角関係――1995-99年(楊 永明)
第八章 東アジアの構造変動と日台関係の再編――2000-07年(楊 永明)
第九章 安定化する中台関係下で展開する日台関係――2008-16年(松田康博)
第十章 「失われた好機」と深化する積み上げ式実務関係(清水 麗)

情報

川島真,清水麗,松田康博,楊永明 著
『日台関係史 1945-2020 増補版』
東京大学出版会, 340ページ 2020年10月 ISBN: 978-4-13-032230-0 

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