書籍紹介

大木康 著 『明淸江南社會文化史研究』(汲古書院)

著者からの紹介

 

 本書『明清江南社会文化史研究』は、わたしがおよそ三十年の間に、さまざまな場面で発表してきた文章を集めた論文集である。わたしはこれまで、主として明末蘇州の文学者馮夢龍(一五七四〜一六四六)の人物とその作品を中心に、ささやかな読書を続けてきた。そしてまた、わたしの関心は、馮夢龍周辺の文学作品、また文学をとりまく環境に及んでいた。馮夢龍に直接関係するものは、『明末のはぐれ知識人 馮夢龍と蘇州文化』(講談社メチエ 一九九六)、『馮夢龍『山歌』の研究』(勁草書房 二〇〇三)、『馮夢龍と明末俗文学』(汲古書院 二〇一八)の単行書にまとめたが、ここにはそこに入らなかった文章たちを集めた。
 時代としては明清の両代にわたり、地域としてはおおむねいわゆる江南地方が関心の中心にあった。より具体的には、(一)俗文学作品、(二)文人、(三)科挙、(四)書物といったテーマに関心が集中している。書名に社会文化史と銘打ったゆえんである。
 明清両代、とりわけ明末から清初に至る時期、南京、蘇州、杭州、揚州などを擁する江南地方では、経済的な活況を背景に、文化の花が咲き誇った。伝統的詩文についてはいうまでもなく、書画や庭園などの藝術、優雅な文人趣味の世界など、明末時期の江南には、多くの文学者、藝術家があらわれ、活躍している。そしてまた出版業の発展を背景に、伝統的な雅文学ばかりではなく、戯曲、小説、俗曲などの通俗文藝が隆盛をきわめたのも、この時代の特色である。かくのごとき綾錦のような世界が、明王朝の滅亡、続く清軍の南下によって、たちまち修羅場と化し、当時の知識人は過酷な選択の前に立たされることになる。こうした人間模様が見られるのも、この時代ならではのことである。
 本小著は、こうした明清時代の時代の様相を浮き彫りにすることを目指したものである。

汲古書院による紹介はこちら
http://www.kyuko.asia/book/b531397.html

目次

                                        
はじめに
第一部 俗文學をめぐって
第一章 嚴嵩父子とその周邊――王世貞、『金瓶梅』その他
第二章 明末惡僧小説初探
第三章 中國民間の語りもの『紅娘子』について 
第四章 明清小説の中の俗曲「西江月」
第五章 晝像資料から考える中國明清の歌唱文化
第六章 明清文學における道教・神仙思想に關する覺え書き
第七章 十六、十七世紀 世界の文學
第八章 日本江戸時代の「洒落本」と中國文學
第二部 文人をめぐって
〔陳繼儒〕
第九章 山人陳繼儒とその出版活動
第十章 蔣士銓『臨川夢』の中の湯顯祖と江南文人
〔錢謙益〕
第十一章 錢謙益と程嘉燧
〔冒襄〕
第十二章 冒襄における杜詩
第十三章 彭劍南の戯曲『影梅庵』『香畹樓』とその時代
〔侯涵〕
第十四章 侯涵の生涯――生き殘った者の辛苦
〔その他〕
第十五章 文人趣味の教科書 
第十六章 明清文人たちの樂園――江南の園林
第三部 科擧をめぐって
第十七章 明清時代の科擧と文學――八股文をめぐって
第十八章 宋眞宗の「勸學文」について
第四部 書物をめぐって
第十九章 明清兩代における鈔本
第二十章 明清における書籍の流通
第二十一章 線装本の普及とその背景
第二十二章 明末における「畫本」の隆盛とその市場
第二十三章 中國の博物誌・百科事典
第二十四章 江戸と明の小説と圖像をめぐって
第二十五章 作者の肖像――東アジア圖書史の一斷面
 
あとがき/索引(人名・書名作品名)/英文目次/中文目次

情報

大木康
『明淸江南社會文化史研究』
汲古書院, 788ページ 2020年9月 ISBN: 9784-7629-6667-5

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