日 時:2020年11月7日(土)13:00~
会 場:オンライン開催(オンライン会議システムZoomを使用)
コーディネーター:菅豊(東京大学大学院情報学環・学際情報学府)、西村明(東京大学大学院人文社会系研究科)
司会:菅豊
慰霊は、集合的(集団的という意味ではない)で様式的、規範的、そして反復的なあり方が、これまで主として注目されてきた。一方、本研究会では、個人的で、非様式的で、融通無碍でアドホックであるヴァナキュラーな慰霊のあり方に注目する。
それは、個々人の類い希な想像力と創造力によって生み出され、深い情動によって支えられるアーティスティックな慰霊である。またそれは、個々人の意志によって自由に生成され、創意工夫され、翻案される個人化された慰霊である。そのために、歴史性を持つ定型化した社会様式として「民俗」をとらえる視角からは、抜け落ちやすい慰霊でもある。
至って個人的(personal)であり私的(private)なものとして、それは産声を上げるために、最後まで特定の個人によってだけ理解され、解釈され、実践され、死者とその個人とだけが取り結ばれる行為として押し留められ、他の誰にも顧みられない場合がある。またそれは、ふとしたことをきっかけに、偶然、多くの人びとによって理解され、解釈され、実践されることによって、多くの人びとと死者とを取り結ぶ社会的な行為へと転位され、集合的な行為と化す場合もある。その発生と発展、そして最後の結末までの道のりは一様ではなく、予測不可能である。
本研究会では、そのような個人化された自由なヴァナキュラー慰霊に登場する「もの」=アートと、その製作行為に内在する想像力と創造力を、個人と社会という両面から検討する。
発表者はこれまで戦争死者の慰霊・追悼について調査・研究を行ってきた。靖国や忠魂碑の問題が出発点にあるためであろうか、これまでの慰霊研究の動向は、(実践同士の歴史的影響関係や儀礼的型など)慰霊の典型性の解明とでもいうべき方向に展開されてきたように思われる。しかし現場に目を向け、当事者の声に耳を傾けると、典型性を追究する研究者の眼にはむしろ「型破り」と見え、個人的偏差として処理してしまいたくなるような、創造性豊かな実践に直面する。本発表では戦死者の慰霊との関わりで仏像を彫ったり、8ミリ映像を制作するといった元兵士たちの営みに注目する。これらは決して慰霊に付随した余技として片付けるべきものではなく、死者やさまざまな生者と自らとの関係を紡ぎ出すヴァナキュラーな技(アート)として捉えるべきではないかというのが発表者の見立てである。「架橋」をキーワードに、考察を進めてみたい。
コメンテーター:君島彩子(国際日本文化研究センター博士研究員)
共催:「野の芸術」論研究会(科研「「野の芸術」論―ヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」グループ(研究代表者:菅豊))、東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける「民俗学」の方法的課題」研究会(主任:菅豊)、現代民俗学会
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研究会HP(現代民俗学会HP):http://gendaiminzoku.com/meeting.html#meeting51