News

髙橋昭雄教授 最終研究発表会「日本の村からミャンマーの村へ」が開催されました

報告

 本発表会は、発表者の実家の農業の写真、そして1986年から現在に至るまで、発表者が撮影したミャンマーの農村の写真とその説明から始まった。ナムカンの棚田と茶作を調べに行ったところ、炭焼きや芥子が農家経済にとって重要だったという話、2007年のナムサンでは茶作が世帯の主な収入源だったが2015年には中国への出稼ぎに変わった話、チン州に棚田と焼畑の経済を調査に行ったところ、実はマレーシアへの出稼ぎが重要だった話、パテインの精米所の調査では、精米所の看板の向きが精米動力、精米量、市場とも関係していた話など研究に関わる話の他に、コーカンでの調査中に内戦に巻き込まれて2週間も籠城した話、プタオの山の中の村で類人猿を食した話、国境を簡単に越えてしまう話、調査中に猛毒のマルオアマガサヘビに出くわした話などの「冒険譚」も交えて、65枚の写真が上映された。
  続いて本題に入り、独立後のミャンマー農業史を特徴づける、農地国有制、供出制、計画栽培制の三つの制度、すなわち発表者が「農業政策の三本柱」と命名した制度が、農民をどのように管理し、農村経済の構造をどのように規定してきたかについて論じた。ただし、厳しい農政の現実規制力は、それを巧みに変形する下からの力によって弱力化された。発表者はこれをナーレーフムと名付け、下級役人と村人との二者間の了解や妥協と定義した。この二つの上下の力関係の中で生起する「生きた制度」の中で、村人たちはミャンマーの体制転換に如何に対応してきたのかといった視点からの調査結果を踏まえ、農地関係法と実態の乖離、供出制度と計画栽培制度の規制力の限界、商品経済の浸透と農業経営の変化、農村に多数居住する非農民の経済生活、電化・情報化・動力化と農村生活の変貌、社会経済階層の規定要因と階層変動などに関して、様々な新説を提唱し、その変容の方向を「脱農化(De-agrarianisation)」と総括した。
  さらに、こうした変化の中にあっても変わらないミャンマー農村の本質として「村落共同体不在論」を提示した。そこにおける村の「まとまり」方は、日本のように、村という「全体」あるいは「社会的統一体」(村の精神)が個人を規制する共同体的なものではなく、二者間のネットワークが集積した「頻会の論理」によるものであり、村は頻会の「場」として観念され、その延長上に「場の親族」圏としての村が認識されるコミュニティ的なものであるという説を展開した。このような累積的二者関係にいろいろな「触媒」が作用することによって集団や組織ができる。水、土地、葬儀、火事、泥棒といった具体的なものから、歴史、強制、リーダーシップといった抽象的なものまで、様々な「ものやこと」が触媒になりうる。だが触媒の魅力がなくなったり機能しなくなったりすると、個人はあっさりと集団を抜ける。ミャンマーの村人たちは、組織や集団そして村からでさえ、自由であり、自立的である。日本の村のような「共同体の失敗」が少ないからである。
詳細については、講演の録画をご覧ください。
https://drive.google.com/file/d/1RZnwiAMdtb_pOES1Ys9LMI-xocEW5fD1/view?usp=sharing

なお、髙橋教授へのコメントは下記のフォームからお願いします。
https://forms.gle/4ZzneSawviXzHT1g9

当日の様子

開催情報

【日時】 2023年3月16日(木)14時~16時

【会場】オンライン(Zoomミーティング)

【題目】日本の村からミャンマーの村へ

【発表者】髙橋 昭雄 (東京大学東洋文化研究所・教授)

【司会】青山 和佳(東京大学東洋文化研究所・教授)

【使用言語】日本語



登録種別:研究活動記録
登録日時:WedMar2210:25:452023
登録者 :髙橋・田中・田川
掲載期間:20230323 - 20230623
当日期間:20230316 - 20230316