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東文研セミナー「『新しい野の学問』の時代へ-民俗学が進みゆく潮流のひとすじ-」(第1回「新しい野の学問」研究会)が開催されました

東文研セミナー「『新しい野の学問』の時代へ-民俗学が進みゆく潮流のひとすじ-」

 

■発表者:菅豊(東京大学東洋文化研究所)
■日時:2013年6月22日(土) 13:30~
■会場:東京大学東洋文化研究所3階大会議室

 


日本の民俗学は、かつて「野の学問」と表現されていた。その表現には、その学問の在野性や、現場におけるフィールド科学性、人びとに資する実践性、権力や権威、そして官学アカデミズムといった「何もの」かへの対抗性というエッセンスが込められていたはずである。この、かつての「野の学問」は、現在、余喘を保つ状況にある。しかし、その一方で身の回り=「野」に問題を発見し、情報を収集し、分析し、発信し、実践し、組織を構成し、資金を獲得する人びとは確実に増加している。そして、その能力=リテラシーと意欲は、かつて「野の学問」が起こった時代以上に、現代においてむしろ格段に高まっているといっても過言ではない。そのような時代を背景に生起した、多様なアクターが協働参画する知識生産と社会実践を、「新しい野の学問」と呼ぼう。

 

「新しい野の学問」は、かつての「野の学問」と類似するが、けっして同じものと見なしてはならない。また、この時代の状況を暢気に「『野の学問』の復権」、あるいは「新しい民俗学の再創造」などと喜んではならない。いまの「野」は、かつての「野」とは異なっている。また、「新しい野の学問」が生まれている背景には、かつての「野の学問」が生まれた近代の状況とは異なる、現代の状況が横たわっている。たとえば環境破壊や地域格差、住民の高齢化、政治や経済、文化のグローバリゼーションといった切実な現状、さらにグローバル・ポリティクスとも絡む環境や文化の保護思想や多文化主義、市民主体の公共性論などといった強力な思潮というものに、いまの「新しい野の学問」は胚胎しているのである。「新しい野の学問」は、かつての「野の学問」とは異なる知識生産と社会実践の様式として、《いま、ここ》に立ち上がっている。

 

「新しい野の学問」は、社会のなかで「役にたつ」ということを標榜し、アカデミズムの特定の狭いディシプリンに閉じ籠もることなく、多様な叡智と技能、経験を使う新しい学知である。それは研究者や専門家だけではなく、公共部門や市民、NPO、企業などを含めた多様で異質なアクターが参画し、立場性を乗り越えて協働する知識生産と社会実践のガバナンス運動といってもよい。その新しい学知では、日常生活のなかで等身大の人間の問題が発見され、方法が現場に即して選択され、帰納的に理解される。そしてそれは他者と自己を含む再帰的な知の営みとなっている。

 

ただこのような新しい知識生産や社会実践は発展するにしたがい、一方でときに定型化し、あるいは規範化し、マニュアル化し、汎用化し、手段化し、その手法の適用自体を目的とする「大文字の学知」として、専門学問や政治に利用され始めている。さらにそれらは教条化して、本来あるべき「野」から乖離し、またもやアカデミズムに回収されるという問題にも、いまや直面しているのである。

 

本研究会は、現代社会における「新しい野の学問」の大いなる可能性を追究しつつ、その発展に随伴する困難性を克服するために組織された3年時限の研究会である。今回は、その研究会で今後検討されるであろう「新しい野の学問」の論点整理と問題提起を行いたい。

 


■主催/共催:科研「現代市民社会における『公共民俗学』の応用に関する研究―『新しい野の学問』の構築―」(代表者:菅豊・東京大学東洋文化研究所教授)/東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける『民俗学』の方法的課題」


東文研セミナー「『新しい野の学問』の時代へ-民俗学が進みゆく潮流のひとすじ-」(第1回「新しい野の学問」研究会)が開催されました
当日の会場の様子

東文研セミナー「『新しい野の学問』の時代へ-民俗学が進みゆく潮流のひとすじ-」(第1回「新しい野の学問」研究会)が開催されました
菅教授による発表

 



登録種別:研究活動記録
登録日時:WedJun2615:49:552013
登録者 :室井康成
掲載期間:20130622 - 20130922
当日期間:20130622 - 20130622