2015年7月9日(木)午後、東文研セミナー「許全勝先生、王鑫磊先生(復旦大学文史研究院)をお迎えして」が東洋文化研究所3階第1会議室に開催された。高見澤 磨所長(東洋文化研究所)が司会、大木 康(同・教授)がコメンテーターを務め、張 馨元(同・助教)の通訳により、本研究所に訪問研究員として滞在している復旦大学文史研究院の許全勝副研究員と王鑫磊助理研究員がそれぞれ「『蜜』の研究」と「1592-1598年の朝鮮戦争に関する考察――東アジアの視点から」を題して発表した。
許全勝副研究員の報告は中国語の「蜜」という字の由来に注目した。「蜜」は中国語においてインド・ヨーロッパ語族に由来すると確定できる数少ない外来語の一つで、トカラ語B方言であるクチャ語のmitという言葉に由来すると推測される。「蜜」という言葉はサンスクリット語のmadhu(蜜、蜂蜜酒)、ギリシャ語のμεθυ(methu葡萄酒)やμεθη(methē,スピリッツ)、古代教会スラヴ語のmedŭ(蜜)、リトアニア語のmidùs/medùs(蜜)、古英語のmoedu(蜂蜜酒)、古高ドイツ語のmetu(蜂蜜酒)、ドイツ語のmet(蜂蜜酒)、英語のmead(蜂蜜酒)などの言葉と比較可能である。許副研究員は古典文献及び出土文献に見られる「蜜」という字を検討し、紀元前1000年には既に蜂蜜が中国に伝来していた可能性があると主張した。
王鑫磊助理研究員の報告は1591-1598年の朝鮮戦争(豊臣秀吉の朝鮮出兵、文禄・慶長の役とも呼ばれる)の経緯を再考し、この戦争は中国・日本・韓国の三カ国が参戦した戦争であったのみならず、東アジア全体に影響を及ぼすと主張した。これまで中国の学界では、日本や韓国の歴史文献を重視してこなかったために、この戦争に関して十分な研究が行われてこなかった。本報告では、王氏はシャム海軍の参戦、対馬島の役割、戦後の朝鮮俘虜の行く末等、これまであまり注目されてこなかった問題について検討し東アジアの視点から1591-1598年朝鮮戦争を再考することの重要さを強調した。
報告後、大木康教授が「蜜」の解釈の違い、「蜜」と甘いものとの関係、1591-1598年朝鮮戦争の名前の由来について、報告者と議論を交わした。参加者と報告者の間に「蜜」の字と蜂蜜の関係、1591-1598年朝鮮戦争の意義などについて活発な議論が行われた。
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日時: 2015年7月9日(木) 13:30-16:00
会場: 東京大学 東洋文化研究所 3階 第1会議室
講師:
許 全勝 (復旦大学文史研究院、副研究員)
王 鑫磊 (復旦大学文史研究院、助理研究員)
題目:
許 全勝 「『蜜』の研究」
王 鑫磊 「1592-1598年の朝鮮戦争に関する考察――東アジアの視点から」
司会: 高見澤 磨(東洋文化研究所 所長)
コメンテーター: 大木 康 (東洋文化研究所 教授)
使用言語: 中国語(適宜日本語通訳あり)
担当:高見澤
要旨:
許 全勝 「『蜜』の研究」
中国語の中で「蜜」という字はインド・ヨーロッパ語族に由来すると確定できる数少ない外来語の一つで、トカラ語B方言であるクチャ語のmitという言葉に由来すると推測される。1916年にはロシアの言語学者Polivanov氏が「蜜」の由来は印欧祖語の*medhuに遡れることを明らかにしている。また、「蜜」という言葉はサンスクリット語のmadhu(蜜、蜂蜜酒)、ギリシャ語のμεθυ(methu葡萄酒)やμεθη(methē,スピリッツ)、古代教会スラヴ語のmedŭ(蜜)、リトアニア語のmidùs/medùs(蜜)、古英語のmoedu(蜂蜜酒)、古高ドイツ語のmetu(蜂蜜酒)、ドイツ語のmet(蜂蜜酒)、英語のmead(蜂蜜酒)などの言葉とも比較可能である。本講演では古典文献及び出土文献に見られる「蜜」という字を再検討し、紀元前1000年には既に蜂蜜が中国に伝来していた可能性について論じる。
王 鑫磊「1592-1598年の朝鮮戦争に関する考察――東アジアの視点から」
1591-1598年の朝鮮戦争(豊臣秀吉の朝鮮出兵、文禄・慶長の役とも呼ばれる)は中国・日本・韓国の三カ国が参戦した戦争であったのみならず、東アジア全体に影響を及ぼした。これまで中国の学界では、日本や韓国の歴史文献を重視してこなかったために、この戦争に関して十分な研究が行われてこなかった。日中韓三カ国の歴史文献を総合的に利用しなければ、1591-1598年の朝鮮戦争の全貌を客観的に把握することはできない。この講演ではシャム海軍の参戦、対馬島の役割、戦後の朝鮮俘虜の行く末等、これまであまり注目されてこなかった問題を中心に、この戦争を東アジアの視点から研究するための方法について基礎的な検討を行う。