本書は、博士論文に加筆・修正を加えたいわゆる「博論本」です。本書が扱う19世紀後半から20世紀初頭のオスマン帝国では、一方でコレラという新たな感染症禍に直面し、他方では国力増強の観点から人口増加やその健康維持に国家的な関心を高める中で、国家的な医療・衛生体制の整備が進められました。本書は、その拠点となった都市自治体(ベレディエ)と各自治体に任命・雇用された市行政医に着目し、その地方への普及を明らかにしたものです。
筆者は元々イズミルという港町への関心からオスマン史研究を始めたのですが、徐々に具体的なテーマを都市の公衆衛生問題に定めていく中で、なぜ(比較的史料が多い)イスタンブルでなくイズミルを対象とするのか?という指摘を受けることも多くなってきました。そこで、単に地方都市の衛生問題を研究するだけでなく、近代における国家的な医療・衛生の地方への普及という大枠に位置づけ、地方の側から近代国家を照射することにしました。筆者の元々の関心を反映して、地方新聞を用いた都市社会史研究である点も、特徴の一つかと思います。
もとよりオスマン史に限らず他の地域との比較を意識した研究ですが、単著として出版するにあたり、より多くの方の関心を引くように様々な図版を加えました。まずはパラパラめくってみるだけでも手にとって頂ければと思います。
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