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東文研セミナー「二つのミンゾク学から世界民俗学、そしてその先―グローバルでローカルで複数のフォークロア研究へ―」が開催されました

●開催日時:2014年12月21日(日)13:30-

●開催場所:東京大学東洋文化研究所3階大会議室

●発表者:
  川田牧人(成城大学)
  梅屋潔(神戸大学)
  島村恭則(関西学院大学)

●コメンテーター:小熊誠(神奈川大学)

●コーディネーター:梅屋潔、川田牧人、島村恭則

担当:菅


●研究会趣旨
  民俗学の古くて新しい問題の一つに「二つのミンゾク学」がある。言わずと知れた「民俗学」と「民族学」である。古くは柳田國男が『青年と学問』(S3)でこの問題をさかんにとりあげ、たとえば「〔エスノロジーを〕民俗学と訳してみたいのであるが、困るのは、「民族」という語と響が紛らわしいのみならず、べつに民族学という方がよいという者もあるので、にわかにそう決めるわけに行かぬ」(「Ethnologyとは何か」)や、「まず名前が問題になる」として、「諸君はたぶんこれを英語でいうフォクロア、またはエスノロジーの意味に解しておられるのであろう。…一方フォクロアを民俗学、他方エスノロジーを土俗学とでも訳して置くとしたらどうか」(「日本の民俗学」)などと逡巡していた。そして『民間伝承論』(S9)ではethnologyを「土俗学」とあえて音をかえて訳し、「広い意味の人類学が融合して、完全な一つの学問となるまでには、今いう土俗学はもう少し積極的に、こちらから進んで事実を集めて行く仕事になっていなければならぬ。よほど国々のフォクロアと、近い形にまでその態度を変えた後でないと、社会人類学、あるいは強いて民族学と名乗る学問とは一緒に手を繋いで並んで行くことが難しいと思う」と距離をおくいっぽうで、民俗学自体の発展については、「一国民俗学が各国に成立し、国際的にも比較綜合が可能になって、その結果が他のどの民族にも当てはめられるようになれば、世界民俗学の曙光が見え初めたといい得るのである」として「世界民俗学」を標榜していたことがうかがえる。
  「二つのミンゾク学」の問題は、日本民族学会の日本文化人類学会への改称(2004年)を契機として、日本国内でcultural anthropologyを「文化人類学」と称する傾向がつよくなったことも関係して、近年では大きな問題としてとりあげられることは少なくなったように見受けられる。しかしいっぽうを「民俗学」もういっぽうを「文化人類学」と称し分けることで棲み分けが完全になされたと考えることはできない。そもそも近年では、anthropology at homeの動きにみるように人類学による自文化研究や、その逆に民俗学における外国研究などもさかんになってきており、ますます乗りあわせが顕著になってきたともいえる。さらに、柳田の世界民俗学は近年では「グローバル・フォークロア」という観点から、内発的に成熟させた各国各地域のフォークロア研究の比較綜合がなされる段階にいたっている(島村恭則2014「フォークロア研究とは何か」『日本民俗学』278:1-34)。
 このような状況をふまえ、二つの学問分野の名称問題のみに限定して矮小化したり、また両者のちがいを峻別したりしてとじこめてしまうのではなく、どのように乗りあわせが可能なのか、いかに問題を共有できるのかといった視点での議論が生産的ではないかと考えられる。この企画で考えたいのは、制度としての側面ではない。むろん制度的側面に触れざるを得ない部分もあろうが、それらの議論は最小限にとどめ、むしろ方法論の問題として、あるいはその手前にあるものの見方やとらえ方、発想の問題として、さらには対象や問題との身のおき方、〈かまえ〉といった、学の原初的な成り立ちの部分を考えたい。
登壇者たちは、日本の特定のフィールドで調査研究をおこないエスノグラフィックな研究成果を持つと同時に外国研究をおこなっている、あるいはその逆に、日本民俗学に軸足をおきながらも外国での研究生活経験もあり外国研究にもくわしい、いわば「二つのミンゾク学」の体験者である。そこにはどのような共通性と多様性があるのか。その研究経緯から、ローカルな立脚点にたちながらそれがグローバルに協奏する複数的なフォークロア研究のありかたをディスカッションしたい。


●発表要旨
川田牧人「私は○○○でミンゾク学をやっている」
 本セッションの皮切りとして、「私は○○○(外国)でミンゾク学をやっている」というフレーズを考える。これは私が日本と外国の両方でのフィールドワークの手ほどきを受けたプロセスで聞かれたことばである。このフレーズをもとに、「二つのミンゾク学」デフォルト問題についてふれ、セッションの出発点としたい。

梅屋潔「民俗学者とは誰か?」
 私は、民俗学の周辺部で仕事をしながら、決して「民俗学者」とは呼ばれない。「民俗学」の科目を何度も担当しているのにもかかわらず。それでは 「民俗学者」とその他の分水嶺はいったいどこにあるのか?改めて考えてみよう。

島村恭則「「複数形人類学(民俗学由来)」へ:Anthropologies with strong background in Folkloristics.」
 本報告では、近年、活発化している「複数形人類学」をめぐる議論と柳田國男が構想した「世界民俗学」思想との接合について 考える。また、あわせて、「人類学的日本研究」と「民俗学」との〈積極的接合〉はいかにあるべきかについても検討する。


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東文研セミナー「二つのミンゾク学から世界民俗学、そしてその先―グローバルでローカルで複数のフォークロア研究へ―」



登録種別:研究活動記録
登録日時:WedJan711:38:362015
登録者 :塚原・藤岡
掲載期間:20141221 - 20150321
当日期間:20141221 - 20141221