2016年に、イラク南部の地域「アフワール」が、ユネスコの世界遺産(文化遺産・自然遺産)に登録されました。「アフワール」は、メソポタミア文明をはぐくみ、また豊かな生態系を持つバスラ県の湿原地帯です。セミナーでは、駐日イラク共和国大使館のラハマーン・ムフシン臨時代理大使から、「アフワール」の歴史的重要性、そして今後のイラクと日本とのさらなる文化交流を期待する言葉を受け、3人の専門家にご登壇を頂きました。
「大好きな湿原の話なら、いくらでもできる!」と公言する千葉大学の酒井啓子先生には、自身が湿原地帯を訪れて撮影した写真、この湿原を舞台にした研究書(セシジャー著『湿原のアラブ人』など)の紹介を交えながら、湿原地帯出身者とバグダードの都市発展との意外な関係についてご報告を頂きました。サダム・フセイン期には、反政府ゲリラの潜伏地となることを恐れた政府が湿原の干拓事業を行ったことなども紹介され、イラクの近現代史に湿原がたびたび登場することが提示されました。続いて、東京大学東洋文化研究所の小泉龍人先生には、ウルやウルクといったメソポタミアの古代都市についてお話を頂きました。古代都市の中心線が川の流れに沿ったものであると推測されること、さらには神の頭上に描かれる冠が水牛を模したような角を持つことなどが紹介され、湿原地帯と古代文明の関係に会場の注目が集まりました。最後の登壇者であった国際協力機構(JICA)の登坂宗太先生には、戦後イラクへの日本の貢献について、インフラの整備や建設プロジェクトを紹介頂きました。特にバスラで進行中の浄水プラントの建設に参加者の関心が集まり、登坂先生からは治安状況に関する日本関係者と現地カウンターパートなどとの認識の差が課題であることが提起されました。
会場との質疑応答では、河川の塩害とその対策、日本がこの貴重な「アフワール」になし得る貢献、古代都市遺跡の保全と湿原保全の関係など、活発な議論が交わされました。国籍も母語も職業も多様な70人以上の参加者を得て、古代から現代を縦横無尽に行き来する、非常に充実した会であったと思います。
(報告:鈴木啓之〔司会担当、日本学術振興会PD・日本女子大学所属〕)
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【日 時】 2016年11月28日(月)16:00-19:00(開場15:00)
【場 所】 東京大学東洋文化研究所・3階大会議室
【登壇者】
ラハマーン・ムフシン氏(駐日イラク共和国大使館 臨時代理大使)
酒井啓子氏(千葉大学 教授)
小泉龍人氏(東京大学東洋文化研究所 特任研究員)
登坂宗太氏(国際協力機構 中東・欧州部)
【司 会】鈴木 啓之 (日本学術振興会 特別研究員PD)
【使用言語】日本語(アラビア語・英語)
【概 要】
2016年にイラク南部の「アフワール」が、ユネスコの世界遺産に登録された。これを記念し、中東懇話会・中東映画研究会主催、東洋文化研究所班研究「中東の社会変容と思想運動」共催、駐日イラク共和国大使館 バスラ県、科学研究費助成事業新学術領域研究 計画研究B03 「文明と広域ネットワーク:生態圏からの思想、経済、運動のグローバル化まで」(研究代表五十嵐誠一)共催により、セミナーを開催した。また、このセミナーの開催とあわせて、東洋文化研究所1階ロビーでは、写真家の鈴木俊昭氏による「アフワール」の写真展が、1週間にわたって開催された(12月2日まで)。
16:00 | 開会の辞 ラハマーン・ムフシン氏(駐日イラク共和国大使館 臨時代理大使) |
16:10 | 趣旨説明 岡田總氏(中東懇話会) |
16:20 | ご挨拶 ダルガーム・アジュワディー氏(バスラ県知事代行) |
16:30 | 映像上映—船頭の歌 鈴木俊昭氏(中東懇話会) |
16:40 | 講演1 酒井啓子氏(千葉大学 教授) 「南部湿地帯:イラク近現代史はここから始まった」 |
17:10 | 休憩 |
17:25 | 映像上映—遺跡の姿 |
17:30 | 講演2 小泉龍人氏(東京大学東洋文化研究所 特任研究員) 「メソポタミアの環境と歴史」 |
17:50 | 映像上映—現在のアフワール |
17:55 | 講演3 登坂宗太氏(国際協力機構 中東・欧州部) 「イラク戦後復興への日本の貢献」 |
18:15 | 質疑応答 |
18:45 | 閉会の辞 長沢栄治(東京大学東洋文化研究所 教授) |
【主催】中東懇話会・中東映画研究会
【共催】東洋文化研究所班研究「中東の社会変容と思想運動」
【後援】在日イラク共和国大使館,バスラ県,科学研究費助成事業新学術領域研究 計画研究B03 「文明と広域ネットワーク:生態圏からの思想、経済、運動のグローバル化まで」(研究代表五十嵐誠一)
担当;長澤