News

東文研セミナー「農民美術から民俗学史を拡張する」(シリーズ「フィールドとしての農村・再考」Part.2 )(科研「「野の芸術」論―ヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」(研究代表者:菅豊)第8回研究会)が開催されました

報告

  2021年8月7日(土)13時から「農民美術から民俗学史を拡張する」(シリーズ「フィールドとしての農村・再考」Part.2)が開催された。本研究会は、菅豊教授(東京大学)を研究代表とする科研プロジェクト「「野の芸術」論―ヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」の第8回研究会である。
  研究会の開催にあたり、まず加藤幸治教授(武蔵野美術大学)から「拡張する農民美術運動と農村の工芸」と題し、本研究会における問題提起がなされた。
  続いてこの問題提起に対して、青江智洋氏(京都府立丹後郷土資料館)から「近代日本における副業奨励と農民美術」、趙岩氏(武蔵野美術大学大学院)から「中国における「民間美術」と陝北民俗剪紙の近代」と、日本と中国という異なるフィールドにおける農民美術運動の事例について紹介と考察が進められ、全体討論に向けた話題が提供された。
  研究発表後、両発表者それぞれに菅教授からコメントと質疑応答があり、続いて加藤教授も交えた全体討論が行なわれた。その後、約50人の参加者も交え活発な質疑応答や討論が交わされた。
  なお研究会当日は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う感染症予防の観点から、オンライン会議アプリケーションであるZoomを活用したリモート会議形式で開催された。

※本研究会はJSPS科研基盤B「「野の芸術」論―ヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」(研究課題/領域番号19H01387)の研究成果である。

当日の様子

開催情報

日時:2021年8月7日(土)13:00~16:00

会場:オンライン開催(オンライン会議システムZoomを使用)

コーディネーター:加藤幸治(武蔵野美術大学)、菅豊(東京大学)

タイムテーブル:
 13:00~13:20 問題提起:加藤幸治「拡張する農民美術運動と農村の工芸」
 13:20~14:40 発表1:青江智洋(京都府立丹後郷土資料館)「近代日本における副業奨励と農民美術」
          発表2:趙岩(武蔵野美術大学大学院)「中国における「民間美術」と陝北民俗剪紙の近代」
 14:40~14:50 休憩
 14:50~15:50 討論(加藤幸治、青江智洋、趙岩、菅豊)

趣旨:
 民俗学史は、学問としての民俗学の形成過程としての「正史」と、必ずしも研究を目的としない在野の実践を育んだ「外史」の、両面を見なければ描き出すことができない。このシリーズ「フィールドとしての農村・再考」は、民俗学の「野の学問」としての性格を浮き彫りにするため、民俗学史の外縁にある多様な実践に目をむける試みである。
 Part.1の現代民俗学会第52回研究会では、農民文学と農村問題をとり上げた。Part.2である今回の研究会のテーマは、農民美術である。郷土玩具趣味や民藝運動、民謡や郷土芸能、農村青年教育などの多様な実践は、国民国家における庶民文化の多様性へのまなざしがその土台となっている。その意味において、「フィールドとしての農村・再考」は「フォークロア・再考」の端緒となりうる。
 農民美術運動とは、大正から昭和初期にかけて、美術家・山本鼎が中心となって推進された運動である。彼は、冬は雪に閉ざされる長野県の農村において、若者に木彫りや刺繍などの工芸技術の訓練を行って農民らしい造形表現を生み出し、それを東京の百貨店等で販売した。農民美術は、正規の美術教育を受けていない農村青年・女子が、常に土に根ざした生活のなかで育まれる感性をもとに意匠を創出し、農民であるがゆえに生まれる表現を目指すものであった。農民美術運動は、子どもが子どもらしい自由な絵画表現を行う児童自由画運動や、戸外制作や鑑賞、教養を重視した自由画教育とセットで展開し、美術による人間復権を志した運動でもあった。
 農民美術運動の広がりは、行政による副業政策と結びついて農村産業振興に取り入れられていったり、国内観光や郷土研究と結びついたりと、当初の美術運動としての性格から大きく拡張していった。そしてそれは、とりわけ地域の工芸技術の活性化や近代化と結びつくものであり、農山漁村の工芸に大きなインパクトをもたらすことがあった。そうした広がりは、まさに民俗学が学問としてのかたちを成していく時期に展開したものであった。
 今回の研究会では、農民美術運動の拡張や地域的受容と、工芸技術に対するフォークロアとしてのまなざし、そしてまなざしに自覚的な農村の人々によるものづくりの実践に着目する。日本における農民美術と工芸技術をめぐる政策との関わりについての事例を青江智洋氏から、中国における「民間美術」としてのまなざしと農村工芸の展開について事例を趙岩氏からそれぞれ話題提供いただき、日中の比較の視点も入れながら議論を広げていきたい。

共催:「野の芸術」論研究会(科研「「野の芸術」論―ヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」グループ(研究代表者:菅豊))、現代民俗学会

担当:菅



登録種別:研究活動記録
登録日時:WedAug1815:25:462021
登録者 :菅・田川
掲載期間:20210819 - 20211119
当日期間:20210807 - 20210807