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教員の新著が出版されました
田島俊雄, 張馨元, 李海訓 編著『アズキと東アジア』

編著者からの紹介

 

 この中国産小豆の輸入を日本は今後とも安定的に維持できるのか。この問いを念頭に、我々の共同研究は3年間にわたり展開されてきた。
 直感的にいえば、経済大国化しつつある中国にあって、農業保護の対象たる米・小麦およびトウモロコシの主要穀物および大豆に比して、雑豆生産は相対的に不利化するのではないかとの予想がまず立てられる。つぎに、小豆と緑豆は中国の雑穀・雑豆産地において作期が重なり、また中国の内需に関しては、その規模において緑豆が小豆を圧倒する状況にあることは、専門家のみならず中国で暮らしたことのある人々の常識である。外需をみても、とくに東アジアにおいては小豆・小豆製品と緑豆製品たるもやし・春雨に対する需要は、必ずしも代替的なものではなく、したがって原料たる小豆と緑豆は、中国国内産地での生産、すなわち農地での作付けを奪い合う関係にあることが容易に理解できる。初年度にはまず中国の小豆・緑豆の主産地である東北および内蒙古を中心に現地調査を実施し、この報告に内外の統計データ、さらに中国の雑豆品種を網羅する形で、中間的な成果として『中国雑豆研究報告:全国・東北篇』(田島俊雄・張馨元編著、東京大学社会科学研究所現代中国研究拠点研究シリーズ No.12、2013年3月)を刊行した。
 2013年度にはこれを踏まえつつ、旧満洲に代わり中華人民共和国期に新たな小豆の主産地となった天津地域の農業発展と日中小豆貿易に着目し、経済史を専門とする劉鳳華研究員(天津社会科学院)をメンバーに加えた。2013年7月には天津農学院(崔晶教授)と「日中共同雑豆産業発展シンポジウム」を共催し、引き続き黒竜江省西部、内蒙古自治区東部、陝西省楡林地区で現地調査を実施した。
 2013年12月には、雑豆関係者の交流の場である十勝小豆研究会の招請を受け、「中国における小豆生産・流通事情について」と題する研究成果の中間発表を試み、「中国産小豆の輸入価格上昇に備え、早急に一次関税率をゼロとし、輸入量の確保に努めるべきである」旨の政策提言を、筆者の責任で行っている。
 これらと並行し、日本と同様に関税割当制度の下に中国産小豆を輸入する韓国で資料調査を実施し、さらに1970年代から80年代にかけて小豆および加糖餡の対日輸出を担った台湾にまで視野を広げ、中央研究院PDの蕭明禮研究員(台湾大学博士)をメンバーに補強した。そして日本では小豆と同様の関税割当品目にして、中国の輸出農産物としては量・金額ともに緑豆、小豆を上回るインゲンにも着目し、2014年3月の段階で『中国の雑豆需給と対外貿易』と題する成果報告を日本豆類協会に提出した。
 現在の我々の頭の中には、中国の東北・内蒙古、それに華北や内陸部の産地において、雑豆生産はより限界的な地域にシフトしており、限られた供給をめぐり、日本や韓国、また台湾、ベトナムの雑豆関係者、もやし・春雨加工業者、さらには蕎麦業界の関係者が入り乱れ、中国の内需と市場を競い合っているという構図が描かれている。
 2014年4月に筆者は大阪産業大学に異動したが、雑豆に関する共同研究は、研究の重点を日本の国内市場や東アジアの通商問題に移しつつ継続し、最近では関西地域においてもネットワークを広げつつある。その関係で日本・韓国の小豆・加糖餡輸入にかかわる構造的差異について明示的に考えるところとなり、最近では砂糖をめぐる通商問題を含め、東アジアにおける加糖餡産業の展開過程について議論を行ってきた(第9章付論、第10章参照)。
 前後して、共同研究のメンバーである西果林は東京大学大学院経済学研究科修士課程に進学し、日本の小豆市場と契約販売をテーマに自らの研究を進め、その成果は修士論文『食品加工メーカーの商品特性にもとづく原料調達方法の選択―日本における小豆加工商品の事例分析―』(2015年3月)として結実している。
 このようにして3年間にわたり展開されてきた中国雑豆研究会を中心とする研究プロジェクトの成果を世に問うべく、本書は刊行される。

(以上、本書・序章より抜粋。)


目次等の詳細情報は「刊行物・教員の著作コーナー」に掲載された記事をご覧ください



登録種別:研究活動記録
登録日時:WedApr1304:25:002016
登録者 :張・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20160330 - 20160630
当日期間:20160310 - 20160310