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シンポジウム「未来×技術×国際関係―2045年の世界を思考する」が開催されました

報告

   2026年8月5日、東京大学 情報学環・ダイワユビキタス学術研究館「ダイワハウス石橋信夫記念ホール」にて、東京大学東洋文化研究所と未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット主催によるシンポジウム「未来×技術×国際関係―2045年の世界を思考する」が開催された。本シンポジウムは、本年4月にダイヤモンド社より刊行された安川新一郎グレート・ジャーニー合同会社代表(本学未来ビジョン研究センター客員研究員)の著書『未来思考2045 ー 危機、分断、そしてAIはどう世界を変えるのか』の出版を契機として企画されたものであり、著者である安川氏と、小泉悠東京大学先端科学技術研究センター准教授(一般社団法DEEP DIVE代表)が基調講演を行った。司会は、佐橋亮東京大学東洋文化研究所教授が務めた。本シンポジウムは対面とオンラインを併用したハイブリッド形式で実施され、対面では約100名、オンラインでは約250名が参加した。

   安川氏は冒頭、自著に込めた「未来思考」の定義について説明した。安川氏によれば、データやトレンドを分析する「未来予測」は統計解析などによりAIでも代替可能であるが、「未来思考」とは予兆を手がかりとして、過去・現在・未来に貫通する構造を捉え、自らが主体者となって能動的に未来を推論し、望ましい方向へ導く生存戦略である。この思考の根拠としてカール・フリストンの「自由エネルギー原理(能動的推論)」を挙げ、生物や脳、組織、国家に至るエージェントが、外部環境を観察し予測誤差を最小化するように動く生存本能に基づくものであると説明した。続けて安川氏は、グローバル資本主義や情報インフラによって衣食住や価値観の均一化が進む一方で、多様なアクターや独自の価値観が先鋭化する「分散化・多元化」が起き、これが社会の深刻な分断を引き起こしていると論じた。特にAI技術の急速な進化に言及し、2040年にはAIエージェントが地球経済を駆動する世界が到来し得るとの見通しを示した。

   小泉氏は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻という「21世紀の戦争」の冷酷な現実から論を起こした。民間における地政学リスク分析を行い、社会に対して説得力ある警告を発するため、自身が設立した一般社団法人DEEP DIVEの取り組みを紹介した。また、商用衛星画像やSNSなどの公開情報を活用することで、他国の軍事活動が「政治的交渉のための威嚇」なのか、「本物の戦争準備」なのかを民間の視点で監視・峻別することの有効性を示した。さらに、2030年頃までには衛星やレーダー技術の普及により地上にある国家の軍事活動を「ほぼ隠せなくなる時代」が到来すると予測した。その結果、従来の大型で高価な兵器は脆弱になり、今後は安価なドローンのような大量にばらまける「分散型テクノロジー」へシフトし、これが2045年に向けた軍事活動の主流となると指摘した。

   パネルディスカッションにおいて、佐橋教授は「未来×技術×国際関係」を考える上での核心的な問いとして、先端技術の結晶であるAI(人工知能)とHI(人間知能)の掛け合わせやシナジーをどう構築すべきか、という問題を提起した。特に2026年7月31日に日本で国家情報局が設立されたことを踏まえ、「未来をインテリジェンスする力」においてAIとHIがどのように組み合わせるべきかを問うた。これに対し小泉氏は、商用衛星画像が契約額1万ドル程度から入手可能になるなど情報のコストが低下する一方、情報の「解釈」や、AIに「何をさせるか」というアジェンダ設定、哲学的な問いを立てる力は人間にしかできないと応じた。安川氏もこれに同意し、最新AIのメタ認知能力の高さに驚きを示しつつも、人間に残されたものとして「身体性」や対話の価値、そして「手綱を外さない」人間力の重要性を強調した。

   佐橋教授はさらに、AIによる軍事の意思決定支援が進む中で、人間の役割が単なる「ラバースタンプ」と化し、実質的にAIが殺傷や戦争の決定を主導していく未来の危うさについて議論を促した。小泉氏は、どれだけAIによる指揮統制システムが進歩しても、最終的な戦争目的の設定や決断は人間に帰属すべきだとしつつ、低強度のテクノロジーによる暴力や干渉に社会が晒され続けるリスクを指摘した。安川氏は、飛行機やダイナマイトなどの歴史的技術が常に「平和利用」を目的として開発されながらも最終的に軍事利用されてきた歴史を振り返り、AIという「自ら思考する主体」の出現に対し、ディストピアへの警戒心を持ちつつ、人間が「押し戻す力」やビジョンを持って能動的に関与し続けることの必然性を説いた。

   質疑応答では、会場およびオンラインの参加者から多角的な質問が寄せられた。「AIが人間の運命を決定する未来への懸念」について、安川氏はディストピアを回避するために人類が未来思考で踏みとどまる必要性を訴えた。また、「繁栄や安全保障を超えた、哲学や宗教による平和へのアプローチ」について、安川氏はテクノロジーの悪用を防ぐために「誰も取り残さない」という観点から人間全体の幸福を考えることが必要であり、宗教の役割も重要性を増していると述べ、小泉氏もSF小説などを引きながらテクノロジーに人間的なアジェンダを組み込む重要性を指摘した。最後に佐橋教授は、技術にドライブされるだけではなく、人間が「押し戻す力」やビジョンを持つことの重要性を改めて総括し、シンポジウムを締めくくった。

 

開催情報

日時:2026年8月5日(水)15時00分〜16時45分

場所東京大学 情報学環・ダイワユビキタス学術研究館3階「ダイワハウス石橋伸夫記念ホール」
(対面/
Zoomウェビナー)

主催:東京大学東洋文化研究所・未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

言語:日本語



登録種別:研究活動記録
登録日時:TueSep113:07:552026
登録者 :佐橋・神足・神林
掲載期間:20260901 - 20261130
当日期間:20260805 - 20260805