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第2回定例研究会「ポスト<開発>の人類学と協同性のポリティクス:南インドの農村とグル」(池亀 彩 准教授)が開催されました

報告

  2015年4月に次世代アジア研究部門に着任した池亀准教授は、南インドの農村社会で影響力をもつ宗教リーダー「グル」に着目し、研究を行ってきた。本報告では、今後の課題として、過剰開発の問題に対処するグルと人びととの間に、どのような「協同性のポリティクス」が生じてきたのかを明らかにすること、それを通して、ポスト<開発>の人類学のあり方を考えていくことが示された。
  池亀氏によると、開発を扱う(欧米の)人類学研究には二つの傾向がある。一つは、1990年代以来盛んになった開発言説批判であり、ここでは開発は一枚岩的に否定されてきた。もう一つは、「開発の民族誌」と呼ばれるものである。開発をめぐる社会関係を描写する後者の研究の中では、開発のもつ複雑性が示されてきた。ただし、扱われた事例は、上からのプロジェクトに関わるものが主であった。反開発・環境主義等も含めて、より広い視野をもって開発を捉え、その中にいる人びとの動きを考察するための取り組みが必要であり、それが池亀氏のいうポスト<開発>の人類学である。
  具体的な事例として、インド南西部カルナータカ州での村落調査で得られたグラム・パンチャーヤット選挙における議席の競売や、深刻な地下水資源の枯渇にさらされた地域における灌漑プロジェクト(グルの主導によるダムの建設と貯水池への引水)、旧不可触民(ダリト)出身のグルによる国際的な二酸化炭素排出取引システムを利用した太陽光ランプ配布事業などが紹介された。グルと人びとがつくりだすローカルな協同を詳細に描き出す中で、池亀氏は「協同性のポリティクス」を創発する倫理(ダルマ)の可能性を示した。
  報告後、フロアからは、「ローカルな協同」が語られる際の「ローカル」をどのように設定しうるのか、グルをどう位置づけるのか、調査の方法に関して等、多くの質問があがった。25名を超える参加者とともに活発な議論が続いた。

当日の様子

開催情報

日時: 2015年10月8日(木)14:00-16:00

会場東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室

題目 :ポスト<開発>の人類学と協同性のポリティクス:南インドの農村とグル

発表者 :池亀 彩 (東洋文化研究所・准教授)

司会:名和 克郎 (東洋文化研究所・教授)

使用言語: 日本語

概要
  開発を対象とする人類学は、1990年代の開発言説批判から、開発プロジェクトの生み出すさまざまな社会関係を描写していく「開発の民族誌」へとシフトしている。本研究では、開発を一枚岩的に否定する前者と開発の複雑性を明らかにしつつも依然上からのプロジェクト中心の後者とを共に乗り越える視点としてポスト<開発>の人類学を考えていきたい。発表者のこれまでのグル研究を発展させる形で、深刻な水資源の枯渇やグローバルな環境主義が、グルという媒介者を通じて、どう新しい協同性を生み出す契機となっているのか、またその協同性のポリティクスとはどういうものなのかを南インドの農村部の事例から分析していく。

担当:池亀



登録種別:研究活動記録
登録日時:Tue Oct 13 11:52:19 2015
登録者 :池亀・後藤・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20151008 - 20160108
当日期間:20151008 - 20151008