本報告では、報告者がこれまで研究の中心として位置づけてきた、明末蘇州の文人馮夢龍(1574~1646)について、これまでの主立った研究のいくつかが紹介され、将来の研究計画の一端が語られた。
中国の明末は、「四大奇書」をはじめとする白話小説の成立など、通俗文学が花開いた時代であり、馮夢龍は、その明末にあって、短篇白話小説集「三言」、蘇州の民間歌謡集『山歌』、笑話集『笑府』などの編著で知られ、「明末通俗文学の旗手」とされる人物である。日本での知名度はいまひとつながら、中国においては、文学史の書物にきまって一項が設けられるほどよく知られた人物である。
報告では、はじめに明末文学における馮夢龍研究の意義、近年の伝記資料の発見にもとづき、馮家が代々「儒医」の家柄であり、その父親の世代ですでに出版活動を行っていたこと、そして馮夢龍の作品の中で最もよく知られる短篇白話小説集「三言」の研究史を中心に、報告者がそれら資料を入手した経緯などの思い出をも交えながら、魯迅、鹽谷温、馬廉、容肇祖、Patrick Hananほかの研究について紹介した。
最後に、日本において馮夢龍作品の面白さをより広く伝えるため、これからは翻訳にも力を入れたいとの決意が述べられた。
当日は、対面参加者108名、オンライン参加者161名があった。
日時: 2024年3月14日(木) 15時00分〜17時00分
会場:国際学術総合研究棟1階・文学部3番大教室(赤門ゲート入ってすぐ、地図参照)+オンライン(Zoom)
※国際学術総合研究棟キャンパスマップ:https://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_01_07_j.html
発表者:大木 康(東京大学東洋文化研究所・教授)
題目:馮夢龍研究の過去・現在・未来
司会:上原 究一(東京大学東洋文化研究所・准教授)
使用言語:日本語
要旨:
中国の明末は、「四大奇書」をはじめとする白話小説の成立など、通俗文学が花開いた時代であった。その明末にあって、短篇白話小説集「三言」、蘇州の民間歌謡集『山歌』、笑話集『笑府』などの編著で知られ、「明末通俗文学の旗手」とされる蘇州の文人馮夢龍(1574~1646)は、日本での知名度はいまひとつながら、中国においては、文学史の書物にきまって一項が設けられるほどよく知られた人物である。
通俗文学に関わる作品以外にも、馮夢龍の著作は広く経史子集の四部にわたっており、その活動も科挙、出版、遊里など、さまざまな方面に及んでいる。報告者はこれまで、馮夢龍を一つの「展望台」として、馮夢龍その人の著作、明清の文学、そして中国の文学を中心とする読書の旅を続けてきた。
いまこころみにCNKIによって「馮夢龍」と検索すると2998件、「三言」で検索すると3035件の結果が出た。これらすべてに目を通すことは、もはや誰の手にも余るものであろう。報告者の知る範囲についてではあるが、個人的な思い出も含めながら、馮夢龍に関する20世紀以来の主立った研究を回顧し、将来への展望を導くことができればと考えている。