2025年10月16日(木)14時より、梅村尚樹准教授による2025年度 第4回 定例研究会「宋元時代の「記」を読む――宋元社会史研究の方法と課題――」が開催された。 本発表では、まず報告者のこれまでの研究内容として、宋代中国における学校が、科挙制度、官僚制度、朱子学の隆盛といった先行研究の中でどのように位置づけられるのかが述べられた。そのうえで、今後進めたい研究の方向性として、記という文体を唐代以来の文脈の中で整理し、記には何が書かれたのか、どのように書かれたのか、石刻資料を用いる研究との違いなどが説明された。最後に現在の宋代史研究の置かれた状況を利用可能な史料状況から示して、記を用いた研究の可能性が示された。会には内外から36名の参加があり、コメンテーターの上原究一准教授からは、詩など記以外の文章群を用いても同様の研究ができる可能性などが指摘されたほか、フロアからは記を石刻と殊更に区別する必要がない点など活発な議論が展開された。
日時: 2025年10月16日(木)14時〜16時(日本時間)
会場:東京大学東洋文化研究所大会議室(3F)、対面のみ
発表者:梅村 尚樹(東京大学東洋文化研究所・准教授)
題目:宋元時代の「記」を読む――宋元社会史研究の方法と課題――
司会: 田中 有紀(東京大学東洋文化研究所・准教授)
コメンテーター:上原 究一(東京大学東洋文化研究所・准教授)
使用言語:日本語
要旨:「記」とは散文の文体のひとつであり、唐代後半期から多く書かれるようになった。宋元代にはさらに盛行し、例えば、宋代に書かれ現在読むことのできるものだけでも4,000篇以上にのぼる。「記」の多くは、建築物の新築や改修、あるいは大きな事業が行われた際に、それを紀念する目的で書かれ、その内容は石に刻まれてその場にとどまり続けるため、地域社会の様相を示す史料として歴史研究で利用されてきた。こうした点では、いわゆる「碑」と似た性質を持つともいえるが、一方で「記」の多くは実際の刻石文としてではなく、文集や地方志といった編纂資料に収録されることで、現在までその内容が伝わっている。そのため「碑」よりもはるかに多くの文章が利用可能である点や、広域的に複数の「記」が相互に参照され関連しやすい点など、異なった特徴も見られる。
本報告では、これまで十分に利用されてこなかった史料群である「記」を、歴史研究にどのように生かすことができるのか、宋元時代史研究の現状とそれをとりまく史料状況を踏まえながら、その可能性を示しつつ、今後の展望を描きたい。