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【ご案内】(11/27)東文研セミナー「自然保護と文化保護、何が違うのか?-その異同を考える」

東文研セミナー「自然保護と文化保護、何が違うのか?-その異同を考える」のご案内

研究集会名:「自然保護と文化保護、何が違うのか?-その異同を考える」
日時:2010年11月27日(土)13:00~
場所:東京大学東洋文化研究所3F大会議室

登壇者と発表タイトル:

・菅豊(東京大学東洋文化研究所教授)
 「資源としての『自然』と『文化』
 -客体化され管理される対象の異質性と同質性」
【要旨】現代社会において、自然も文化もともに資源として見つめられている。
従来、自然資源は、その物質的な有益性から直接資源とされてきた。しかし、現
在、自然資源は、その本源的な価値とは異なる、政治や経済、社会的な位相の価
値を付与され、文化資源化している。そして、自然は文化とともに、ナショナル
な語りに絡め取られている。本発表では、明治神宮の「森」や、「里山」を題材
に、日本の自然が「日本」の本質として文化資源化されることのポリティクスを
批判しつつ、さらに、そのような本質を強調する文化資源化が、自然や文化をめ
ぐる保護や活用という実践現場で、有効なストーリーとして用いられているディ
レンマについて検討する。

・藤原辰史(東京大学大学院農学生命科学研究科講師)
 「ナチスの農場概念
 -『土壌・植物・動物・人間の共生』とホロコーストのあいだ」
【要旨】農場という自然と人間が交流する場を、ナチスは、伝統的な農業経済学
のように「経営体」とみなすのではなく、人間が自然と共生する「有機体」と考
えた。これは、19世紀のロマン主義の流れを汲む思想であり、ナチスもその系
譜にあるといってよい。ナチ時代に有機農業の支持者が多数登場する背景として
も重要である。この有機体論を貫徹させるには、市場原理に代わる新しい価値観
の創出が必要であった。それを提供したものが、生物学や民俗学と結びついた農
本主義だったと私は考えている。この思想が作り上げた価値観がどのようにナチ
ズムの現場において合流したのか──当時の食糧農業大臣や農学者たちの思想と実
践にそくして、考えてみたい。

コメンテーター:安室知(神奈川大学経済学部教授)
コーディネーター:岩本通弥(東京大学大学院総合文化研究科教授)・室井康成
(東京大学東洋文化研究所特任研究員)

[内容]
自然資源という言葉から対比的に流通しはじめた、「文化資源」という言葉が定
着し、その是非はともかくとして、文化はすでに保護から活用=資源化の時代に
突入しています。その保護・保全など管理の手法にも、自然環境で用いられてき
た考え方や方法が、何ら議論や検討されるもことなしに、入り込み、あるいは深
く影響を与えているのかもしれません。そこで今回の研究会では、いま一度、冷
静に、自然保護と生きた人間を巻き込む側面のより大きい文化保護とでは、いっ
たい何が違うのか、これらを腑分けして、その原理的な異同を考えてみたいと思
います。
少々その歴史を振り返ってみると、日本では、1992年のユネスコの世界遺産条約
へ加盟し、「文化的景観」の概念や理念が導入されて以降、それまでの指定文化
財の単体保存から、バッファーゾーンを含めた保護対象の拡張がはじまって、一
体的・総体的な保護と称し、対象範囲の無限的な融通性が増していったように思
われます。近年では、もともとは集落周辺の二次林を指していた「里山」が、以
降、山里的な景観全体に拡張されるほか、「里海」「里川」などといった言葉ま
で産み出され、「自然との共生」の美名の下、際限なく広がりつつあるようにも
思われます。コモンズ概念にしても、アナロジカルに、文化コモンズ論に転換し
ていくような、容易に「文化的なものと自然的なものの混同」されていく傾向が
認められます。
このような日本の現状をみるとき、まずもって想起されるのが、ナチス・ドイツ
におけるエコロジー思想との類同性やその文脈拡張性です。帝国自然保護法から
生活改善運動に至るまで、戦前の日本の諸施策は、ドイツをモデルに政策化され
た歴史的背景があるとはいえ、その奇妙な一致は、一度、俎上に載せて議論した
いと思います。今回のセミナーでは、積極的に「公共民俗学」を主唱される菅豊
氏と、その対論者として『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房、2005年)の著
者である藤原辰史氏を迎え、根源的な問題から手法的な問題まで、全般的に扱っ
ていきます。
本来、自然保護にしても文化財保護にしても、無闇な開発に対して、身の回りの
生活環境が危機に晒され、身辺卑近な自然や文化に思いを至らせ、その歯止めと
してはじまった市民的な住民運動から立ち上がったものも多く、それらは民俗学
の初発の関心とも関連していたでしょう。文化資源という捉え方や言葉の流用で、
外部からアクセスしやすい観光など、資源化の道具に資するとき、私たち民俗学
者には微妙な違和感やためらいを覚えざるを得ないのが実情かと思います。藤原
氏の立場も、有機農法にナチスの汚名を着せることではなく、むしろ逆であって、
それが現代文明社会に問いを発する、根源的な可能性を追究されています。私た
ちの初発の立場と基本的に通有しており、何ものかに回収されない回路が、いか
にして築けるか、それを目指すセミナーであることを付記しておきます。(文責:
岩本通弥)
                                    

主催/共催:
東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおけ
る「民俗学」の方法的課題」研究会/現代民俗学会
問い合わせ先:参加自由です。お問い合わせは東京大学東洋文化研究所・菅豊(
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/faculty/index.htmlに菅のメールアドレスが記
載されています)までお願いいたします。


登録種別:研究会関連
登録日時:Thu Nov 18 11:16:26 2010
登録者 :研究支援担当
掲載期間:20101101 - 20101131
当日期間:20101127 - 20101127