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東文研セミナー「オスマン帝国シャリーア法廷台帳再読」が開催されました
報告
2024年3月29日、東文研セミナー「オスマン帝国シャリーア法廷台帳再読」が、東文研班研究「オスマン朝史料学の方法的課題」と科研費基盤(B)「オスマン帝国における社会階層とジェンダーに関する国際共同研究」の共催で、開催された。これまでもシャリーア法廷台帳を利用し、18-19世紀のオスマン法社会史研究を積み重ねてきた東洋文化研究所教授である秋葉淳氏が、法廷収入簿という別の史料を用いることで、法廷台帳に記録されない法廷の活動に光を当てた。
第一部では、1840年5月～1841年1月の法廷収入簿から、バルカン地域のある町における訴訟件数、訴訟種類、債務請求額、訴訟当事者（職業／宗教／民族／ジェンダー）が提示された上で、同じ1840年の他の町の法廷との比較が行われた。その結果、証書が作成されないため法廷台帳には記録されないが、実際にはシャリーア法廷で多数の訴訟が行われていたこと、その多くを債務請求訴訟、それも比較的少額の日常的な債務訴訟が占めていたこと、当事者としては職人や商店主、また宗教別に見ると非ムスリムが多く利用していたことが明らかにされた。バルカン半島でも反乱が起こり始めていた1840年頃、なお非ムスリムがシャリーア法廷を積極的に利用していたことは特筆すべきことであり、シャリーア法廷が、訴訟の解決のみならず、債務回収において非常に重要な機能を果たす、住民間の信用取引にとって不可欠な機関であったことが示された。
続く第2部「シャリーア法廷台帳再読」では、証書作成の起因者（＝要請者＝受領者）に焦点を当てることで、証書が作成されるに至る背景が分析された。特に、奴隷の自由身分訴訟、成年選択権の行使、婚約破棄、フルウ離婚（身請離婚）、姦通裁判の事例を取り上げ、証書作成の起因者が、裁判を通じて獲得した自らの判決結果や権利を証明するために証書を必要としたことが示された。また、18世紀以降は、訴訟当事者の要請によらない大宰相府への訴訟結果報告書イーラームiʿlâmが作成されるようになり、法廷の業務内容にも変化があったことが示された。コメンテーターの守田まどか氏からは、イーラームの宛先について、大宰相府のみならず訴訟当事者にも写しが手渡されていた可能性が指摘され、どのような時にイーラームが作成されるのか、同一案件についてヒュッジェトとイーラームの両方が作成される場合もあるのかなどについて、議論が深められた。
会場には13名、オンライン37名の参加があり、質疑応答では、法廷に持ち込まれた案件のうちどれほどが法廷台帳に記録されたのか、各都市の物価の違いが訴訟額の多寡に影響を与えた可能性はあるのか、1840年頃の事例をどの程度他の時代に敷衍することができるのか、あるいは時代の潮流の中にどう位置付けられるのかなど、活発な議論が行われ、クレタの収支台帳の事例との比較や、アラビア語で書かれた証書には「起因者」という表現がそもそもないことも話題に上がるなど、盛況の内に幕を閉じた。（文責：佐治奈通子）
当日の様子
開催情報
日時：2024年3月29日(金) 14:30〜16:30
会場：東京大学東洋文化研究所3階第1会議室／Zoom
報告者：秋葉淳（東洋文化研究所）
題目：オスマン帝国シャリーア法廷台帳再読
コメンテーター：守田まどか（東京外国語大学）
要旨：
シャリーア法廷台帳は、約半世紀にわたってオスマン帝国の社会経済、法、女性・ジェンダー史研究の重要な史料として盛んに用いられてきた。しかし、この史料そのものについての理解が十分に進んだとはいえない。本報告の前半では、バルカン地方のある町の法廷収入に関する史料（1840–41年）を素材として、法廷で判決が出されながらも証書（hüccet）が作成されず法廷台帳にも記録されない多数の訴訟が存在していたことを明らかにする。これは、法廷において証書が特別な理由のある場合にのみ作成されていた事実を示している。
後半では、どのような場合に証書が作成されたのか、主に18世紀アナトリアの法廷台帳からさまざまな事例をとり上げながら検討する。鍵となるのは訴訟・契約当事者の要請であり、法廷文書を分析する際には、「なぜ彼女／彼は法廷に出向いたのか」よりもむしろ、「なぜ彼女／彼は証書作成を要求したのか」を問わなければならないことを論ずる。
※本セミナーは、科研費基盤(B)「オスマン帝国における社会階層とジェンダーに関する国際共同研究」（研究代表者：秋葉淳 20H01322）の支援を受けて開催されました。
担当：秋葉
登録種別：研究活動記録
登録日時：ThuMay215:19:292024
登録者 ：秋葉・多田
掲載期間：20240503 - 20240803
当日期間：20240329 - 20240329
