場所:東京大学東洋文化研究所第2会議室
日時:2010年3月25日 2時~5時
司会:安冨歩 東京大学東洋文化研究所教授
報告:深尾葉子 大阪大学大学院経済学研究科グローバル・マネジメント・コース准教授
コメント:岡山裕 慶応大学法学部准教授
安冨・深尾編『「満洲」の成立』(名古屋大学出版会,2009年)は、出版社の宣伝文によれば、「赤い夕日と凍てつく大地、森を切り裂く鉄道と疾駆する馬車、特産の大豆と独自の紙幣、大商人と移民、廟会とペストなど、生態系から経済・政治・宗教まで、相互のダイナミックな連関を解き明かし、中国本土とは異なる社会システムとその形成過程を初めてトータルに捉えた画期的著作。」という性格のものである。このような総合的で動的な歴史記述の方法を同書は「社会生態史学」と呼んだ。
本書は、「森が消えるとき」に作動する人間社会のダイナミックなシステムの変容過程と、さまざまな要素の相互関係を示したが、深尾と安冨はこれと並行して、黄土高原のフィールドワークを通じ、「黄砂発生の社会的機構」という共同研究を進め、黄砂発生の人的社会的側面について、やはり動的な手法を用いて解き明かそうと試みている。
本研究会では、この「社会生態史」という概念の提唱者である深尾の報告を出発点とし、社会生態史学とは何を目指すものか、どのような方法を要請し、如何なる新しい視界を切り開くのか、を論じる。その上で、他地域へのこの手法の適用の可能性を探りたい。
たとえば、1930年代のアメリカ大陸でダストストームが深刻化したことが知られているが、この問題の人的社会的側面を、同じ観点から解き明かすことはできないか、と我々は考えている。そこで、『アメリカ二大政党制の確立―再建期における戦後体制の形成と共和党』(東京大学出版会、2005年、アメリカ学会清水博賞受賞)の著者であり、アメリカ近代史の気鋭の研究者たる岡山裕氏を招き、コメントをお願いする。