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東文研セミナー「ブックセミナー『尋租中國:台商、廣東模式與全球資本主義(中国をレントシークする:在商,広東モデルとグローバル資本主義)』」が開催されました

報告

  2019年5月20日(月)、中央研究院社会学研究所の呉介民博士を講師に迎えて、日本台湾学会定例研究会および科学研究費基盤A「対中依存構造化と中台のナショナリズムーポスト馬英九期台湾の国際政治学ー」(代表:松田康博)との共催による東文研セミナー「ブックセミナー『尋租中國:台商、廣東模式與全球資本主義(中国をレントシークする:在商,広東モデルとグローバル資本主義)』」が開催された。呉講師は、今年3月に刊行した単著のエッセンスを、分析枠組みと分析課題を中心に紹介した。
  呉著(2019)は、呉講師の20年来の広東省におけるフィールドワークと理論的考察の成果の集大成である。出稼ぎ労働者に依存し、委託加工貿易の枠組みを通じて急速な工業化を遂げた広東省の事例に焦点を当て、中国の急激な経済成長のメカニズムを、「差別化されたシチズンシップ」、グローバルな資本主義の力学と中国のローカルなアクターたちの接合、地域のなかで形成された「成長アライアンス」の移り変わりに即して解明したものである。
  セミナーの冒頭で呉講師は、1993-94年にかけて氏と友人達が広東省で撮影したドキュメンタリー映画「台胞」の一部を上映した。映像には、本書が分析対象とした「台商」や第一世代の農民工たちの姿が鮮やかに記録されており、印象的であった。
  続いて呉講師は、この研究を通じて取り組んだアジェンダとして、「台商は中国とグローバル資本主義をどのように結びつけたのか」「中国におけるレントシーキングの横行と急速な経済成長の併存はなぜ可能になったのか」「(労働者に対する)制度化された搾取のなかで国家はどのような役割を果たしたのか」「グローバルバリューチェーンのなかで国家はどのような位置を占めたのか」の4つを挙げ、それぞれを解明する手がかりとして援用した概念や分析枠組みを解説した。
  呉報告に対して、2名のコメンテーターが討論を行った。川上桃子(アジア経済研究所)は、本書の実証的・理論的貢献を高く評価した。そのうえで、「広東モデルへの参与は台湾企業にどのような正と負のインパクトをもたらしたのか」と質問した。園田茂人(東洋文化研究所)は、在中の台湾、韓国、日本企業に対して行ったサーベイ調査のなかから、地方政府・官僚への信頼や関係性に関する結果を示し、問題提起を行った。呉氏からのリプライに続き、フロアからも複数の質問が寄せられた。
  呉著(2019)は、広東省を事例として、経済発展、政治体制、社会変動といった幅広いトピックを統一的な分析視点から描き出した大作である。この画期的な著作のエッセンスとその貢献について活発な議論を行うことができたことは、大変有益であった。

(記録者:川上桃子)

当日の様子

開催情報

日時:2019年5月20日(月) 17:30-19:00

会場:東京大学東洋文化研究所3階大会議室

題目:ブックセミナー『尋租中國:台商、廣東模式與全球資本主義(中国をレントシークする:在商,広東モデルとグローバル資本主義)』

報告者:呉介民(中央研究院社会学研究所副研究員,コロンビア大学政治学博士)

司会:黄偉修(東京大学東洋文化研究所)

討論者:川上桃子(アジア経済研究所),園田茂人(東京大学東洋文化研究所)

使用言語:原則として中国語(討論に際しては日本語での質問も可)

報告者紹介:コロンビア大学政治学博士(1998年)。国立清華大学社会学研究所副教授(2002〜2011年)を経て現職。専門は政治経済学,政治社会学。台湾における「中国の影響力メカニズム」研究の第一人者としても知られる。

講演要旨:
 報告者は,1990年代以来,「台商」(中国で事業を行う台湾企業やその経営者ら)に着目して,中国のグローバル化の過程とメカニズムに関する研究,なかでも「広東モデル」の分析を行ってきた。今回のセミナーでは,その集大成として今年3月に刊行した『尋租中國:台商、廣東模式與全球資本主義』(台大出版中心)の概要を報告する。
 中国の奇跡的な経済発展の特質やそのメカニズムについては,いまだ十分に解き明かされていない問いがある。中国が資本主義への転換を遂げていく過程で,グローバルなレベルとローカルなレベルはどのように結びついたのか?台湾企業はその過程でいかなる役割を果たしたのか?「広東モデル」はなぜ,中国の興隆の鍵となったのか?
 本書では,これらの問いを考察するにあたり,グローバル・バリューチェーン論を修正した分析視点を用い,中国が1980年代に始まった労働集約型 産業のバリューチェーンの新たな地理的拡大のダイナミズムを捉えて,世界の工場へと発展していった過程を明らかにする。台湾企業は,グローバル・バリューチェーンが広東へと拡大していく過程の前衛となったのであり,台湾企業なくして,広東の輸出志向型の発展モデルはありえず,広東モデルなくして,中国の経済的興隆もまたありえなかった。報告ではまた,「レントシーキング型国家」という枠組みから,中国の発展のダイナミズムと,中国が現在直面している問題を論じる。

備考:本セミナーは、日本台湾学会定例研究会(東京)および科学研究費基盤A「対中依存構造化と中台のナショナリズムーポスト馬英九期台湾の国際政治学ー」(代表:松田康博)研究会との合同開催となります。

主催:佐橋亮研究室

担当:佐橋



登録種別:研究活動記録
登録日時:Thu Jun 6 13:38:36 2019
登録者 :佐橋・黄・藤岡
掲載期間:20190520 - 20190820
当日期間:20190520 - 20190520