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東文研・国際学術セミナー「ラテンアメリカと朝鮮半島-越境するアート、崔承喜と冨山妙子をめぐって-」が開催されました

報告

 本セミナーは、ラテンアメリカにおける朝鮮半島地域研究のパイオニアとして名高いロメロ教授をメキシコ国立自治大学よりゲストスピーカーとして招聘し、ロメロ教授が朝鮮研究に携わるに至るまでの足跡を辿ると共に、川端康成などの文豪をはじめとした日本の文化人だけでなく、アジア全体で当時絶大な人気を博したダンサーである崔承喜のラテンアメリカ公演についての研究について回想録のように語っていくというものであった。
 コメンテーターは、アメリカにおける崔承喜研究の第一人者である横浜国立大学の朴祥美准教授が務められ、また、セミナー会場には韓国からの聴講者や、アカデミアの枠に留まらず商社出身の方や報道機関の方も足を運ばれ、非常に盛り上がりのあるセミナーとなった。
 第一部で、ロメロ教授は、朝鮮半島地域研究の専門家になるまでには、激動の日々があったと振り返る。初めて彼がアジア地域に興味を持ったのは、ベトナム戦争の最中、僧侶が焼身自殺を図ったことによる。彼は、そこで大学が単に専門性を身につけるための場所というよりもむしろ、歴史や文明に対する深い理解を学ぶ場所であると考えた。この当時のメキシコの大学改革と共鳴した考えが、当時に創設された東洋学研究所での彼の学びと、韓国での留学生活を助けることになる。彼は韓国から帰国後、アジアを一枚岩的なものと捉えるメキシコの教育政策によって翻弄されることとなったが、一転して近年では、メキシコで多くの若者が朝鮮半島地域研究の専門家を志していると述べた。
 続いて第二部で、ロメロ教授は崔承喜の研究に歴史学的なアプローチから取り組んだことを述べられた。崔承喜は、モダンダンスを石井爆の下で学び、それを朝鮮の伝統的な舞踊と融合させたことによって人気を博したが、この舞踊には植民地のモダニティ化が読み取られる。しかし、ロメロ教授のアプローチはその先へと進み、彼女の出自(両班という、朝鮮半島における上位階級)に言及し、両班から敢えて舞踊の世界に進むことを選んだ彼女自身の決定という点にも触れられた。崔承喜のラテンアメリカでの公演ツアーは、たとえばブラジルでは当時多かった日系移民のために開催されたと考えられると述べられたが、一方でメキシコの軍人官僚ホセ・ヴァスコンセロスからは、公演が中華的であるという批評を受けていたということを語られた。
 崔承喜という越境するダンサーについては、これまで日本、韓国、アメリカなどにおける受容のされ方は研究されてきたが、それがいよいよ本セミナーを通してラテンアメリカまで線がつながることとなった。ロメロ教授が朝鮮半島地域研究の専門家となるに際して重視した文化・人びとの生活様式、そして当時メキシコが国家的なプロジェクトとして推進していた国際関係や、その分断状況といったものへの目線。これらの融合が、このように各国を越境したダンサーについての、越境した研究を可能にしたということが考えられる。本セミナーでは、時間の都合上、画家の冨山妙子氏とラテンアメリカの関係についての議論にまでは至らなかったが、今後のセミナーなどで、ますます取り組まれるべき学問的課題として位置付けられ、今回は非常に実り多いセミナーとなった。

(文責・東京大学大学院学際情報学府 有田 将也)

当日の様子

開催情報

日時: 2018年7月6日(金) 14:00~17:00

会場: 東洋文化研究所 大会議室

講師: Alfredo Romero Castilla(メキシコ国立自治大学・教授)

題目: メキシコにおける朝鮮半島研究

使用言語: スペイン語(逐次通訳付き)

コメンテーター: 朴祥美(横浜国立大学・准教授)

担当:真鍋



登録種別:研究活動記録
登録日時:ThuJul1215:28:382018
登録者 :真鍋・藤岡
掲載期間:20180712 - 20181012
当日期間:20180706 - 20180706