この本は山川出版社の「世界史リブレット 人」シリーズの一冊として刊行されたものです。主役のアリーは、イスラーム教の創始者であるムハンマドにとても近しかっただけでなく、シーア派にはムハンマド没後の教団国家の最初の指導者(イマーム)と、スンナ派には4番目の指導者(カリフ)とみなされる、イスラーム史上の超有名人です。「世界史リブレット 人」シリーズでは、多くの場合、主題となる人物の評伝が史実として書かれるのですが、この本は、アリーは後の世にどう語られてきたかに重点を置いています。史料状況からアリーの実際の生涯を細部にわたって語るのは困難なことが一因ですが、同時に、アリーに対する語りを切り口にしてひとつの 「イスラーム史」を描いてみたいという気持ちもありました。カバーの袖には以下のようなメッセージを入れてあります。
預言者ムハンマドの父方のいとこ、「育ての子」にして娘婿。草創期のムスリム共同体でのアリーの実際のキャリアは、この華々しい出自に反して決して順風満帆なものとはならなかった。しかし彼は死後に見事に巻き返す。後世のさまざまな語りのなかで「伝説」と化した「神の獅子」の姿を通じて、イスラーム教の宗派的・歴史的多様性や歴史観、また歴史のなかで形成される集合的な記憶やイメージというものの性質や力を考えてみよう。
担当:森本
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