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東文研主催 2020年度 4研究所合同シンポジウム「アジアの災害/ Disaster in Asia」が開催されました

報告

4研究所合同シンポジウム「アジアの災害/ Disaster in Asia」 2021年1月26日、東洋文化研究所の主催により、成均館大学東アジア学術院・京都大学人文科学研究所・延世大学国学研究院・東京大学東洋文化研究所参加の「4研究所合同シンポジウム」が開催された。2019年度まで3研究所合同シンポジウムとして隔年で開催されてきたものに、今回から延世大学国学研究院が正式に加わり、日韓4研究所の参加による開催となった。
 今回の共同テーマは「アジアの災害」で、その趣旨は以下の通りである。

 「近年、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ( Greta Ernman Thunberg)さんの活動が注目を集めているように、地球温暖化による異常気象が世界的に甚大な被害をもたらしています。現在、猛威を振るっている COVID-19 の世界的大流行も環境問題と密接にかかわっているとされます。アジアではまた、東日本大震災やスマトラ沖地震、四川大地震のみならず、地震がないと思われてきた韓国でもしばしば小規模地震がみられるようになり、古里原発への影響が懸念されています。一方、近代工業化が各地にもたらしてきた公害、くわえて福島原発事故やセウォル号惨事のように「人災」と呼ばれ、歴史的・社会構造的諸要因が被害をより深刻化させたとみなされる災害もあります。
 漢の儒学者・董仲舒の災異論をはじめ、災害は洋の東西を問わず古典的なテーマといえます。そうした重厚な文献史学的研究にくわえ、近年は被災者のトラウマに焦点をあて、レジリエンスに注目した研究も活発に行われています。災害は事件として報道されるものばかりではなく、異常気象によって、人々のくらしを脅かす災異は今や日常的にみられる現象です。
 2020 年度のシンポジウムでは、そうした緩やかな観点から「アジアの災害」をとらえ、さまざまな切り口から議論を持ち寄ることで、PM2.5 や放射能汚染など、もはや宿命的に共有せざるをえない越境的で、目に見えない「アジアの災害」をどう超克するかを、ともに考えていくきっかけにできればと思います。」
(企画者:東洋文化研究所・真鍋祐子教授)

 

 当日は東洋文化研究所の髙橋昭雄所長と成均館大学東アジア学術院の金慶浩副院長の挨拶の後、8組9名からの報告があり、それぞれに対する 8 名からのコメントが続いた。東洋文化研究所からは菅豊教授が「災禍のなかのパブリック・ヒストリー」と題して報告を行い、東日本大震災・原子力災害伝承館を事例に歴史を語る際の「権限」をめぐる問題を指摘した。また池亀彩准教授も、「コモンズとしての水とグル―南インドにおける宗教リーダーと環境問題」と題して、カルナータカ州中部の貯水池再充填運動における宗教リーダーの役割を通じて、国家の「権限」の分散について論じた。額定其労准教授と鍾以江准教授が討論者として参加し、それぞれ鋭いコメントと質問を投げかけた。

 今回は合同シンポジウムが開始以来初めて Zoom を用いての開催となったが、真鍋教授はきめ細かに計画を練り、シンポジウムを成功に導いた。日韓の同時通訳が入る形の複雑な会の運営においては、板橋暁子助教と菊池百里子特任研究員が非常に重要な役割を担い、司会として田中有紀准教授と後藤がサポートに入った。

 朝10時半より夕方の17時半過ぎまでと長丁場でのオンラインでの開催に不安の声もあった。しかし、8つの報告がいずれも非常に興味深い内容であったこと、討論者を含めての議論が大いに盛り上がったこと、また各内容が異なる地域や事例を扱いながらも連関していたこと、さらには、コロナ禍の現在「アジアの災害」という枠組みが時宜を得ていたことから、まさに、あっという間に時間が過ぎてしまった。「アジアの災害」をどう超克するか、その答えは一朝一夕では得られない。それでも今回のシンポジウムを通じて、考えの糸口やヒントを数多く得られたように思う。
(報告:後藤絵美)

 詳細なプログラムは以下の通りである。

開催情報

【日時】 2021年1月26日(火)

【場所】 オンライン(Zoom)

【テーマ】 「アジアの災害」

プログラム

司会 真鍋祐子(東京大学・東洋文化研究所・教授)
10:30~10:50開会式
開会挨拶 高橋昭雄(東京大学・東洋文化研究所・所長)
開会挨拶 金慶浩(成均館大学・東アジア学術院・副院長)
10:50~11:10発表1 菊地 暁(京都大学・人文科学研究所・助教)
「生活史に現れる災害:ライフヒストリーレポートの試みから」
11:20~11:40発表2 朴昭賢(成均館大学・東アジア学術院・副教授)
「戦乱のトラウマと叙事――17世紀の東アジアにおける災難叙事を中心に」
11:40~12:00発表3 菅 豊(東京大学・東洋文化研究所・教授)
「災禍のなかのパブリック・ヒストリー」
<休憩>
司会:田中有紀(東京大学・東洋文化研究所・准教授)
13:00~13:20発表4 鄭勝振(成均館大学・東アジア学術院・副教授)・松本武祝(東京大学・農学生命科学研究科・教授)
「20世紀における東アジアの水害報告――韓国の東津江・臨津江流域の水害頻発地域における二つの事例」
13:20~13:40発表5 都留俊太郎(京都大学・人文科学研究所・助教)
「災害と共に生きる――台湾農村の20世紀と水利用」
13:40~14:00発表6 朴敬石(延世大学・国学研究院・副教授)
「1931年「長江大水災」における救済と国際協力――国民政府救済水災委員会の外国人人材と海外財源」
<休憩>
14:10~14:30発表7 池亀 彩(東京大学・東洋文化研究所・准教授)
「コモンズとしての水とグル――南インドにおける宗教リーダーと環境問題」
14:30~14:50発表8 呂寅碩(延世大学・国学研究院・教授)
「政治的激変期の伝染病――米軍政期(1945-1948)における伝染病の流行」
<休憩>
司会:後藤絵美(東京大学・東洋文化研究所・准教授)
15:10~15:20発表1へのコメント 孫炳圭(成均館大学・東アジア学術院・副教授)
15:20~15:30発表2へのコメント 鍾以江(東京大学・東洋文化研究所・准教授)
15:30~15:40発表3へのコメント 高銀美(成均館大学・東アジア学術院・副教授)
14:40~15:50発表4へのコメント 福家崇洋(京都大学・人文科学研究所・准教授)
 リプライ 松本武祝(東京大学・農学生命科学研究科・教授)
15:50~16:00発表5へのコメント 金聖甫(延世大学・国学研究院・院長)
16:00~16:10発表6へのコメント 額定其労(東京大学・東洋文化研究所・准教授)
16:10~16:20発表7へのコメント 都賢喆(延世大学・国学研究院・教授)
16:20~16:30発表8へのコメント 平岡隆二(京都大学・人文科学研究所・准教授)
16:30~17:10全体討論
17:10~17:30閉会式
閉会挨拶 稲葉穣(京都大学・人文科学研究所・副所長)
閉会挨拶 金聖甫(延世大学・国学研究院・院長)

担当:真鍋、後藤



登録種別:研究活動記録
登録日時:SunFeb0717:38:182021
登録者 :真鍋・後藤・藤岡
掲載期間:20210126 - 20210426
当日期間:20210126 - 20210126